分かち合う喜びを
「陛下。苦しいですわ」
しばらくして、笑みを含んだ声で言われたファビアーノは、慌てて体を離した。
そしてアイリを改めて眺め、重要な事を思い出す。
涙を拭い、再び微笑むアイリは、無意識なのか腹部に手を当てている。
マリッカの時は、おそらく病気を隠すためだろう。本人の要望で妊娠が分かってすぐ離宮へやり、出産した後に訪れたから、その姿を目にしたことが無いのだった。
「……触ってもいいか?」
一瞬、キョトンと首を傾げたアイリだったが、すぐに思い当たって頷いた。ファビアーノがそっと腹部に手を当てる様子を、穏やかに見つめている。
もはや二人の間に、これまでのすれ違いは無い。ファビアーノは手を離すと、嬉しそうな表情を浮かべた。
「家族が増えるな。子供たちには報せてるのか?」
「マティアス殿下には。不安がっておられましたから、秘密ですよ、と言って。本来、陛下に真っ先にお知らせするところを……」
「いや。気持ちは分かる。今まですまなかった」
そう言ったファビアーノを見上げ、アイリは首を振る。もういいのです、と笑って。
もう会えないと思っていたアイリであったから、来てくれただけで、すべてを許せると思ったのである。
そして、アイリはふと思い出す。国王が来たのなら、言っておかなければならない事があった。
「お母様にはお会いしましたか?」
「いや。そういえば滞在中だったな。今から行こう。アイリはもう少し休んでいるといい」
「いえ、一緒に行きます。お母様は陛下が知らなかった事を知りませんから」
「知っていたふりくらい出来るが?」
楽しそうに笑って言ったファビアーノに、アイリも笑う。
「お母様はああ見えて、勘が鋭いのですよ。仲がいいところを見せませんと」
「俺だけじゃ信用出来ないと?」
「そうかもしれません」
ふふ、と笑うアイリにファビアーノは苦笑する。アイリは少し強くなったようだ、と思いながら。
「わかった。では行こう」
そう言って手を差し出せば、アイリは微笑みながら手を重ねる。
寄り添って歩く二人の姿を見た侍女たちが、やはりこうでなくては、と嬉しそうに笑っていたのだった。