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これは夢か幻か
「……陛下?」
今見ているものが信じられない、というように、確認するような口調でアイリは言う。
「これは、夢かしら?」
続けて呟かれた言葉に、ファビアーノが気の抜けたような顔で笑った。
夢だと疑われてしまうほど、自分が何の行動も起こさなかった事を思い出す。
「こっちに来て確かめるといい」
そう言われたアイリは、おそるおそるファビアーノに近寄って行く。目を離したら消えてしまうとでも思っているのか、決して目を逸らさずに。
ファビアーノの前に立ち、まずは腕に触れる。それから肩、そして頬に手を伸ばす。ファビアーノがその手に手を重ねると、みるみる涙が溢れ出した。
ぽろぽろと涙を零しながら、アイリは微笑む。
「またお会いできて、嬉しいですわ」
その笑みに胸を衝かれ、僅かに顔を歪めたファビアーノは、そのままアイリを抱き締めた。
「すまなかった、アイリ。本当に俺はどうしようもない」
その一言で、アイリの心は溶かされた。