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目覚めの時
その手紙はそこで途切れていた。
ここに書かれている通りに、涙が落ちたのだろう、文字が滲んでいる。
ゴミに捨てられていないという事は、このまま出すつもりだったのか。それとも、捨てるに捨てられず、置いたままにしていただけなのか。ファビアーノには分からない。
ファビアーノは手紙を手にしたまま、目元を手のひらで覆った。その口から零れるのは、謝罪の言葉である。
「すまない、アイリ……。どうして、すぐに信じてやれなかったのか」
一瞬でも疑ってしまった自分が許せない。もっと早く、会いに来るべきだった……。
しばらくして、自分を責め、泣いているようにも見えるその背後で、寝室の扉がゆっくり開かれた。
「ミーナ、水をくれない……」
寝起きの少し掠れた声が、途中で途切れる。振り返ったファビアーノの目には、何度も瞬きをするアイリが映った。
アイリは目を見開いて、立ち尽くしている。
驚いた時のその顔に、寝起きのせいで跳ねているその髪にさえ、愛しさが込み上げた。
二人はそのまま、長い間見つめ合う。先に口を開いたのは、アイリだった。