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今までにない事

王宮から琥珀の宮までは、馬で急げば半日もかからない。ファビアーノはエヴァルドに後を任せると、まだ夜も明けやらぬ早朝に、離宮からの使者と従者と共に出発した。


馬で駆けながら、ファビアーノはアイリと遠乗りに出掛けた事を思い出す。あの時のアイリは屈託のない笑顔で、本当に楽しそうだった。


離宮へ追いやったという事は、それさえも奪ってしまったという事に他ならない。


そのような事を思いながら、琥珀の宮に辿り着いたファビアーノを、ミーナが出迎えた。そのミーナには特に慌てた様子はなく、粛々と歓迎の挨拶を述べる。


「ご機嫌麗しゅうございます、陛下。こんなにも早く足をお運びいただけるとは、恐悦至極に……」

「アイリは?」


ミーナの挨拶を遮り、最も気になっている事を尋ねた。アイリを愛してやまないミーナが取り乱した様子もないのだから、答えは分かりきっているのに。


ファビアーノにも自覚はあったが、大層焦った顔をしていたのだろう。ミーナは、宥めるように言葉を紡ぐ。


「今は落ち着いて、お休みにございます。命に別状はございません。……母子ともに」

「は?」


付け加えるように言われた言葉に、ファビアーノが素っ頓狂な声をあげる。後ろに控えていた従者が小さな笑い声を漏らし、ミーナは穏やかな表情を浮かべる。


慈愛に満ちた、と言うべきか。口調も柔らかい。


「アイリ様から口止めをされておりました。しかしながら、陛下が来られたのなら、その必要はもう無いでしょう」

「……俺の子だな」


つい確認してしまったのは、実感が湧かなかったからかもしれない。


「でなければ、陛下をお呼びしません。どうぞこちらへ」


ミーナは怒るでもなく澄まして答え、先導するように歩き出しす。ファビアーノは呆然と立ち尽くしていたが、やがてその顔に、名状し難い表情が浮かんだ。


「陛下。早く行って差し上げてください」


と、従者に促されてようやく、少し笑ってから、ミーナの後を追った。


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