迷いは恐れ
「なりません!」
ファビアーノは、何度目かのため息を吐いた。早く出たい、という思いから、苛々が募ってくる。
「何様のつもりだ。お前などに俺は止める権利は無い。離せ」
「離しません!わたくしが何のためにあの女を追い出したと!」
そう叫ばれた言葉に、振り払おうとしていた手を止めた。ゆっくり振り返れば、失言に気づいたのか、青白い顔をしたオネルヴァと目が合う。
ある程度予想はしていたが、仮にも王妃の一人ともあろう者が。第二王妃であった事すら、消してしまいたくなる。
「……それはどういう意味だ」
「あ、ですから、その……」
「あの文はお前だな。答えろ」
視線を彷徨わせるオネルヴァに、低い声でファビアーノは言った。
オネルヴァはしばらく無言だったが、突然顔を上げる。さっきまでの動揺はなく、笑みさえ浮かべて。
「そうですわ。仲良く話していたので、もしや、と思い見張っておりましたの。するとあらびっくり。これは陛下にお伝えせねば、と。信じたからこそ陛下も、離宮へ追いやったのでしょう?」
すべて分かっている、と言いたげな口調に、自嘲するように、ファビアーノは笑う。
「俺がアイリを遠ざけたのは、あのまま一緒にいても、傷つけてしまうと思ったからだ。確かに疑いもしたが、今は違う」
そう言って、今度こそ扉を開けて外に出た。
決して振り返らずに去っていく背中を、オネルヴァは笑みを浮かべたまま見送る。
まるで、必ず自分の元に戻って来ると、確信しているかのように。