国のためという建前
その夜。
ファビアーノは、オネルヴァの居る瑠璃の宮へ向かった。
静まり返った瑠璃の宮で、向かい合って座る。オネルヴァは、終始笑顔である。
美しい笑顔であればまあいいが、貼り付けたような笑顔が、ファビアーノには異質に見えた。侍女を下がらせなければ良かった、と後悔したくらいだ。
オネルヴァは何がそんなに楽しいのか、ニコニコと笑って言葉を紡ぐ。
「やっといらして下さって嬉しいですわ。いえ、何もおっしゃらないで。わたくし、分かっていますもの。国王ですものね。いいんですのよ。来てくださっただけで」
一人でペラペラ喋るオネルヴァに、ファビアーノの眉間に皺が寄った。昔と何も変わらない。勝手に自分の意見を押し付けるようなところが、最初から気に入らなかったのだ。
「オネルヴァ。今までのことは悪かった。だが……」
「ですから、よいのです。国王たるもの、国を優先させなくては」
「聞け」
「聞いていますわ陛下。あら、わたくしったらお茶も出さず」
「いいから黙って聞け」
立ち上がろうとするオネルヴァを制し、強引に先を続ける。この調子では、先に進めないと思った。
「俺は、お前を家に返すつもりだ。議会にはすでに、三王妃制を廃止する案を出してある」
三人も王妃がいては出費が嵩む。過去、それぞれに子供がいた事もあるのだから、相当なものだっただろう。その分で国を潤すべきである。
そして、無駄な争いを避けるなら、元より一人にしておけばいい。子供が出来ない場合は、王の弟妹の子供を養子とするのが一番いいだろう。
そんな事を話すファビアーノに、オネルヴァは文字通り固まった。その顔から、笑みが剥がれ落ちる。