初めて見せる怒り
「彼女もその方がいい?何を馬鹿な。彼女が兄上を愛しているのは一目瞭然じゃないですか!」
一息にそう言ったエヴァルドは、荒い呼吸を繰り返している。
ファビアーノを睨み付ける瞳は爛々と輝き、射抜かんばかりである。これほど感情を露にするのは、初めてでは無いだろうか。
「いいですか。確かに僕は、あなたを恨みもしました。けれど、僕では彼女を、あそこまで笑顔には出来なかったでしょう。僕たちはどちらかと言えば、友愛の方が強かったので。彼女の幸せは、あなたと共にある事です」
その言葉に、ファビアーノがようやく笑った。ここ最近はあまり見られなかった、快闊な笑顔で。
「そう思うか?」
「……兄上。それを確かめるために僕を呼びましたね。人が悪い」
ため息を吐きながら、エヴァルドは不機嫌そうな顔を浮かべる。
それが昔と変わらなくて、ファビアーノはまた笑った。安心した、という理由もあるだろうが。
「ああ。悪い。お前の気持ちも知っておきたかった」
「彼女の事を、ちゃんと信じてあげてください。きっと、寂しくて泣いた日もあるでしょうから」
「……そうだろうか」
「急に不安にならないでくださいよ。大丈夫ですって。でも、あまり泣かせては駄目ですよ」
そんな会話をしている二人は、昔に戻ったように見えた。