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もう終わり
ファビアーノはその時、玻璃の宮で仕事をしていたが、慌ただしい足音が聞こえて顔を扉へ向ける。
それと同時に扉がノックされ、従者が扉を開けると、文官の一人が入ってきた。離宮との連絡役を担っている者だ。
普段は手紙を置いて戻るのだが。焦りを浮かべるその顔に、心臓が跳ねた。
「何があった?」
「離宮から、王妃様がお倒れになったと、使者が参りました」
「容態は?」
「はい。幸い命に別状はなく、しばらくは様子を見る、という事ですが……」
思わず身を乗り出していたファビアーノは、安心して背もたれに凭れかかった。
「そうか……。ひとまず、報告ご苦労。使者を休ませてやれ。今から出たら日が暮れる。追って連絡しよう」
頷いた文官が出て行くと、従者が目の前に立った。いつになく楽しげに笑う顔を、ファビアーノは気味悪そうに見上げる。
笑う要素がどこにあるか分からなかったが、無言で発言を促す。
「陛下。そろそろ意地を張るのはお止めになっては?」
そういう事か、とファビアーノは苦笑する。
いい機会だ、と思っているのだろう。つい先頃も、そんな話をしたばかりである。