きっかけはまだなく
「しょうがない人ですね、あなたは。言い訳も尽きたでしょうに」
小さな笑みを浮かべる従者に、ファビアーノはため息を吐く。従者が言うように、自分でもそう思っている。
だが、どうしてもまだ、意固地な自分が出て来てしまうのだ。
「……本当に違うのなら、もっと否定するべきではないのか?」
「否定させなかったのはあなたですよ、陛下」
「では今からでも、手紙を寄越すなりすればいい」
「あなたが会いに行った方が早いでしょう」
「俺は忙しい」
「国王ですからね。ですが、離宮でも仕事は出来ますよ」
ファビアーノは押し黙り、むっつりとした表情を浮かべる。従者としては、これで行く気になってもらいたかったが、まだまだ意地を張りたいらしい。
軽く嘆息して、従者は言う。
「まあ、ゆっくり考えると良いでしょう。嫌でも対面する日がそのうち来るでしょうから」
そう言って従者は部屋を出ようとして、ふと、立ち止まると、振り返りながら再び口を開いた。
「そういえば、瑠璃の宮のお方はどうなさるおつもりで?」
もはや第二王妃様と呼ばない従者だったが、それに関してファビアーノは特に何も言わず、うむ、と腕を組む。
ファビアーノにとっても、それくらいの存在なのだ。顔を合わせる事はあっても、最後に言葉を交わしたのはいつだったか。
「ヴェシサーリ侯爵には、離宮にやらなかっただけ感謝してもらいたいくらいだが、納得はすまい。なんとか手を考えねばな」
「では、アイリ様をお迎えに行くのは、もうしばらく先になりそうですね」
従者に無言で答えると、サインの終わった書類を渡して、別の仕事に取りかかる。
呆れた顔を隠そうともせずそれを受け取って、従者は部屋を出て行った。
しかし、その日は二人が思うよりも早くやって来た。
それから、一週間ほど経った頃だろうか。
離宮から、王妃が倒れたと連絡が来たのである。