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心優しき王子
「父上にはまだ内緒だよ。アイリ様が驚かせたいからって」
「それは……」
一時期体調が悪かったのは、そういう事か、と従者は思う。因みに、離宮からの手紙を従者は見分しないため、従者がこれを聞いたのは、マティアスからである。
ファビアーノに報告が無いのは驚かせたいから、というわけではなく、まだ怒っていると思っているからだろう。
ましてや、マティアスに打ち明けている時点で、不義の子だから、と考えるのはあり得ない。
これを聞けば、ファビアーノはすぐに離宮へ行くだろう。その確信が、従者にはあった。
しかし。
「分かりました。決して言わないと、約束します」
にこやかに従者が笑う。その方が面白い、と思った自分の意地が悪い事は、百も承知である。
マティアスはそんな事にはもちろん気がつかず、子供なりの、固い約束の儀式を取り交わした。