無邪気な瞳
「私には何とも。陛下次第でしょうね」
「父上はアイリ様に何をしたの?」
従者は、思いがけない質問に絶句した。
二人の間に何かがあった事は、マティアスでも分かっているのだ。近くにいるのだから、当然と言えば当然であるが。
庁舎の方では不仲説もちらほらあるし、王が何も言わないから、勝手な憶測が飛び交っている。
しばらくして、従者はため息を吐いた。
「……簡単に言うと、ただの喧嘩です」
ざっくりしているが、事実だ。子供に伝えるのだから、その方が分かりやすいだろう。
マティアスは、きょとんと首を傾げる。あの二人が喧嘩するなんて、想像もつかないに違いない。
従者とて、あの日まではそう思っていた。
「けんか?」
「ええ。陛下はアイリ様が好きすぎて、つい、いじめてしまったのです。けれど素直でない陛下は、まだ謝れないでいるのですよ」
色々仕事を抱えているとはいえ、半年何の行動も起こさなかったファビアーノを、アイリがどう思っているかが問題だが。
従者の説明に納得したのか、マティアスは頷く。それから、秘密を打ち明けるように、声を潜めて言った。
「アイリ様がね、教えてくれたんだけど」
「何をですか?」
「僕たちに、弟か妹が出来るって」
「え!?」
柄にもなく、従者が大きな声をあげる。マティアスは、しー、と口に人差し指を当てた。
従者を驚かせられたのが嬉しいのか、笑いながら。