綺羅星の慰め
ヴェロニカはその後しばらく滞在する事になり、今は客室で休んでいる。本人は、アイリの妊娠を、家族についうっかり喋ってしまうかもしれないから、と言っていたが、ただアイリが心配なだけなのだった。
アイリとしても、母親がいてくれれば心強い、と快く承諾した。突然決まったにもかかわらず、侍女はアイリが言う前に部屋を整えており、ヴェロニカの行動を予想していたようだ。
そんなアイリは今、月の見える窓辺で手紙を書いていた。
出すかどうかはまだ分からない。それでも書きたかった。今の自分の気持ちを。
母に会って、目を逸らそうとした事実に気がついた。陛下に会いたい。その思いに。
離宮での日々。辛くても陛下を忘れてはいなかった事。身籠ったと知った時のこと。
そんな事を書き連ねていると、便箋に涙が落ちた。アイリはそれを拭おうとしたが、次から次に涙が溢れて追い付かない。
やがて書くのは諦めざるを得なくなり、両手で自分を抱き締める。いつも抱き締めてくれた、あの腕が恋しかった。
しばらくそうして、涙がおさまってくると、便箋をそのままにしてアイリは立ち上がった。
いつか出す決心がつくまで、そのままにしておこうと思った。そしてもしかしたら、気を利かせた侍女が、勇気の出せない自分に代わって出してくれるかもしれない、という淡い希望を抱いて。
そのままバルコニーへ出れば、満天の星に出迎えられる。初めてここで見た時よりも、綺麗だと思った。
それは、アイリの心境の変化があったからだろう。今のアイリはもう、あの日を嘆いてばかりではない。
アイリは心配したミーナが休むように促すまで、そのまましばらく、星を眺めていた。