母娘の再会
やがて、お昼も近くなった頃。静かな宮殿に、ちょっとした事件が起きた。
「……アイリ様。起きてください」
テラスで眠っていたアイリの元へ侍女が小走りでやって来て、静かに肩を叩く。
最初は反応しなかったものの、何度も肩を叩かれるうちに、アイリはゆっくりと目を開けて、眠たそうに瞬きをする。それから、焦ったような顔で自分を見下ろす侍女に、首を傾げた。
「何かあったの?」
「はい。実は……」
侍女から告げられた言葉に、アイリは目を見開き立ち上がる。転ばないように、と気遣ってくれる侍女の手を支えに、王妃の謁見の間へ向かった。
王妃の謁見の間は、爽やかな青を基調とした部屋だ。この部屋からも海が見え、王妃が客人と眺めながら会話に花を咲かせる。
部屋に入ったアイリは、窓から外を眺める、同じ色の髪をしたその後ろ姿がすぐに目に入った。
同じ髪でも、アイリよりふわふわしていてウェーブがかかっている。腰ほどの髪を緩く結んであるのも、昔から見慣れた姿だ。
「お母様」
アイリが呼び掛けると母、ヴェロニカはパッと振り返り、満面の笑みを浮かべて歩み寄ってくる。
温和なその顔はアイリにそっくりだが、凛とした雰囲気のアイリよりも、柔らかい印象を受ける。性格としては、弟のヴィルヘルムが一番似ていた。
「ごめんね、急に。何だか突然顔を見たくなって。陛下にちゃんと許可はいただいたわ。本当はお父様やリクハルド、ヴィルヘルムも来たがったのだけど、いくら親兄弟といえど、王妃しかいない宮殿へは入れないでしょう。だからわたくし一人が来たというわけ。それにしても、静養って聞いたけれど、そういう事だったのね。おめでとう」
「あの、お母様。この事はどうかご内密に」
「どうして?」
「……陛下がまだ発表していませんから」
「わたくしとした事が、それもそうよね。分かったわ」
母親に嘘をつく事は後ろめたかったが、王が知らないとは言えない。あっさり頷いてくれた事にほっとしつつ席を勧め、自分も腰を下ろした。
机の上には、侍女たちが軽めの昼食を用意してくれている。二人はそれを口にしながら、会話を続ける。