久しぶりの驚き
庭に面したテラスには、朝の陽ざしが降り注いでいる。
日陰の椅子に座ったアイリは、パンと果物という簡単な食事を終え、ミーナから受け取った手紙を読んでいた。
定期的にやり取りしているマティアスとエヴェリーナの手紙には、毎日の出来事が書き綴られている。エヴェリーナは文字の練習中で、楽し気な文字が躍っていた。
側で成長を見られない事が、アイリに寂しさを感じさせるが、同時に幸せも感じさせる。それから、兄からの手紙を読んだアイリは、思わず、まあ、と声をあげていた。
「若君様は何と?」
侍女の一人に問いかけられ、アイリは笑った。
「ついに、ヴィルが結婚するのですって」
その言葉に、ミーナを除く控えていた侍女たちが揃って、驚きとも残念そうとも取れる声をあげた。後継ぎで無いヴィルヘルムは結婚すれば、侯爵家から出て行くのだ。会う事は少なくなるだろう。
そして、麗しの貴公子たるヴィルヘルムの結婚は、社交界でも大きな話題になっているはずだ、とアイリは想像して微笑む。
「それは良かったですね。お相手は?」
ミーナは落ち着いたもので、アイリのカップにお代わりを注ぎながら、問いかける。
「貴族では無いそうよ」
「まあ。よく旦那様がお許しに」
驚いて目を見開くミーナに、アイリは苦笑した。