意地っ張りはお互い様
「あの方は賢いお方です。ご自分の立場を、よく理解していらっしゃいます。だからきっとこれは、これくらいなら許してくれる、という願望があっての事だったのでしょう。友人との手紙のやり取りくらい、陛下は許してくれる、と」
「始めから俺を信頼していたと?」
「そうは申しませんが」
期待を持って言った言葉を一蹴され、ファビアーノは苦笑する。
この従者が人を褒めるのは珍しくても、主にこんな物言いをするのは珍しくもない。
が、そのお陰で少し気持ちが浮上した。
「義弟との手紙くらい許せるような器量を持て、とお前は言いたいのだな」
「その通りでございます、国王陛下」
慇懃無礼なその態度も、常ならば睨み付けるところだが、今ならば笑って済ませそうだ。
「だが、問題は他にもあるな。手紙の件はよしとしても」
「まだ言いますか」
うんざりとしたように言った従者に、ファビアーノは重々しく頷く。
「徹底的に調べる事は必要だ。あの告発文が嘘だという事が、証明されなければならない」
アイリを疑う心は消えたが、自分で追いやってしまった手前、すぐに呼び戻すことは出来なかった。
静養という名目で離宮へ行ったのだ。すぐに戻ってはおかしい。そんな理由をつけると、思い切りため息を吐かれる。
「陛下。まあ確かに、アイリ様も戻って来づらいでしょうが、あなたが誠心誠意謝れば……。いえ、やはり今は無理でしょうね。あんな事があった後では」
はあ、ともう一度ため息を吐いて、従者はファビアーノを見た。けれどファビアーノはそれ以上は何も言わず、仕事をする、と告げると書類を広げ出した。
そういうわけで、それから半年が過ぎても、アイリが呼び戻される事はなかったのである。