疑惑は疑惑
「……確たる証拠がない」
それでもなお、そう言う自らの主に、従者はあからさまなため息を吐いた。
「そうですね。あなたがそう思っている限り、和解は難しいですね」
だが、それも無理からぬ事かもしれない。
ファビアーノは、エヴァルドに嫉妬しているのだ。自分の知らないアイリを知っている、あの心優しい弟に。
今まで考えもしなかったのに、あの告発文のせいで、その可能性を考えてしまった。
あれは、完全な八つ当たりだった。アイリの口からエヴァルドの名前が発せられた事が、妙に腹立たしくて。
「悪いのは俺か……」
そう呟いたファビアーノに、従者は無言で首肯する。そんな従者にある事を思いだし、そういえば、と口を開く。
「お前、あの二人の手紙の事を知っていただろう」
「何故そうお思いに?」
「俺が持って来た時、少し、後ろめたそうな顔をした」
「これは驚きました。よく見ていらっしゃる」
「茶化すな。何故、すぐに言わなかった?」
これは怒っているというより、純粋な疑問のようだった。従者もそれが分かったため、正直に白状する事にした。
「問題無いと判断しましたので」
「アイリの手紙の内容は?」
「最初の頃は天気の事、庭の花が咲いた事。それから殿下方の事。そして、あなたの事」
「……初めてここに来た時、アイリは寂しかったのだろうな」
遠くを見つめるような目をするファビアーノに、従者は頷く。
何も知らない後宮に来て、寂しくないわけがない。それでつい、元婚約者に頼ってしまったのかもしれない、と考える。