表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/103

過ぎ去った過去

読み終わったファビアーノは、それを乱暴な手つきで従者に放り投げた。従者は反射的に受けとる。


「これだけか。謝罪もない。俺に対する気遣いは一行だけ。それに、署名はザヴィカンナスまでしかない」


普通、王妃の署名は、王の姓を最後につける。アイリ・ソフィア・ザヴィカンナス・ド・サラチェーニ、という風に。


長くなるし、普通の結婚では必要無い事なのだが。


自分に投げたのだから、見てもよいと判断して目を通した従者の顔に、苦笑が浮かぶ。


この署名は、細やかな抗議だろう。


「……お言葉ですが陛下。それだけの事を、あなたはお優しい王妃様になさったのですよ。百年の愛も冷めるでしょう。信じてくれないと解ってる人に、何を言っても仕方がない、と思うのは当然ではないでしょうか」


従者の脳裏に、見送った時のアイリの姿が思い浮かぶ。


ファビアーノの姿が見えない事に安心しながらも、心細げに部屋のある場所を見上げ、そして、少し悲しそうな顔をした。


決して見せまいとはしていたが、隠し通せてはいなかった。


「陛下。王妃様が誰を愛しているかなんて、見ていたら分かりますよ。この私でさえもね。なのに、何故信じられぬのです」


従者がそう言うが、ファビアーノは黙りこんだまま。


ファビアーノも、アイリが不貞を犯していない事など、百も承知のはず。エヴァルドが、誰にも見つからずに珊瑚の宮へ行くのは、不可能なのだから。


「あなただって、あの文書が嘘八百だとご承知のはず。それなのに何故あんな真似を……」


珍しく、従者が怒ったような顔をしている。そんな顔をするのは、ファビアーノが絡んでいる時だけだった。


いつの間にか従者も、アイリの事を大事に思うようになっていたのだ。もちろん、女主人として。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ