披露目の宴
アイリが輿入れをして三日後、三番目の王妃の披露目の祝宴が、黄金の宮にて行われた。その名の由来は、黄金のように輝かしい時間を、という意味でつけられたという。
初日にアイリが国王に挨拶をした謁見の間は、今は貴族や王族で溢れかえっている。着飾った諸侯とその家族が顔を揃えているというのは、目にも鮮やかで煌々しいが、今のアイリにそれを楽しむ余裕はない。
次々に挨拶を受けていたアイリは、この後国王と踊らなければならないというのに、すっかり疲れ果てていた。三番目なのだからここまで派手にしなくても、とは思っても、口にする事は出来ない。これは王妃の為である一方、国王の度量も問われているからだ。
なのでアイリは、国王の隣の席で笑顔を浮かべて座り、挨拶を受け続けるしかなかった。きちんと出来ているかしら、という心配と、この先に待ち受ける事を思い、精神的な疲労が堪っていく。家族とも挨拶をしたが、ぎこちない笑みしか浮かべられていなかっただろう。
ようやく一段落ついて、ふと視線を動かすと、壁際にひっそりと佇むエヴァルドが目に入った。アイリと目が合うとすぐに視線を逸らして別の場所へ移動したが、アイリはそのままじっとそこを見つめてしまう。
「疲れたか?」
その声にはっとして、隣に顔を向けた。ファビアーノが僅かに首を傾け、アイリを見つめていた。こうしてみると、整った顔立ちをしているのだな、と思いつつも、エヴァルドとは瞳の色が同じだけで、あまり似ていないな、とも考えてしまった。
それを誤魔化すようにアイリは首を振り、曖昧な笑みを浮かべる。この短時間で愛想笑いは上手くなったのではないかしら、と少し思いながら。
「……いえ。緊張しているだけですわ。こういった事は初めてで慣れておりませんから」
「そうか。無理もない。俺も最初の頃はそのようなものだった。しかし残念な事に、今日の宴はまだ長いぞ」
そんな事は百も承知だ、とアイリは心中で呟く。ここでエヴァルドならば、無理しなくてもいいよ、と言うだろうか。
と、思わず比べてしまい、いけない、とアイリは首を振る。そして何か別の事を話さなければ、と口を開いた。
「あの、陛下は何か趣味はおありですか?」
もっと別の事を言おうと思っていたのに、アイリの口から出たのは最も無難な話題である。それが面白かったのか、ファビアーノは笑みを浮かべた。そうすると途端に険しい顔つきから一転、まるで少年の様な顔つきを覗かせて、アイリは少しだけ意外に思う。