66/103
一抹の寂しさを残して
やがて、賑やかな夕食を終え、アイリはエヴェリーナに本を読んでいた。
椅子に座るアイリの足元に、エヴェリーナがちょこんと座っている。アイリを見上げる瞳はきらきらと輝いていた。
離れなければならない事が、急に寂しくなる。
「……そうして、塔から救いだされたお姫様は、その青年と一緒に、いつまでも幸せに暮らしました。おしまい」
アイリが本を閉じると、エヴェリーナが手を叩く。その可愛らしい姿に微笑んで、膝の上に抱き上げた。
「面白かったですか?」
「うん!お姫様、良かったね」
「そうですね」
「また読んでね」
無邪気に言う姿に、アイリは寂しそうに微笑む。果たして、次はあるのか。いつまで離宮に居ることになるか。
ファビアーノの誤解が解け、許してくれる日が来るのか、アイリには分からない。
もしかしたら、一生離宮で暮らす可能性もあるのだ。
エヴェリーナに何も言えず、アイリはその頭を撫でる。嬉しそうな笑い声をあげる様子に、また胸が痛んだ。
「……そろそろお休みの時間ですね」
そう言って誤魔化したアイリを、離れて座っていたマティアスが、静かに見つめていた。