気遣いの者たち
次の日、アイリは笑顔でいようと決意した。子供達に、笑顔の自分を覚えていて欲しかったし、最後かもしれない思い出を、悲しいものにはしたくない。
王宮では、アイリは療養のために離宮へ行くという事になっている。
一緒に行きたい、としばらく駄々をこねていたエヴェリーナも今は大人しく遊んでおり、マティアスは幼心に何か気がついているのか、何も言わずに一人で黙々と本を読んでいる。
時々、チラチラとアイリに視線を向けるが、目が合うと逸らされた。
それに一抹の寂しさを感じながらも、これでよいのだ、と思った。自分がいなくても、彼らは大丈夫だろうと。
問題児でもないのだから、その点も安心である上に、彼らはこの後、瑪瑙の宮で暮らす事になる。その日の午後、ファビアーノの従者が伝えてきたのだ。
それもまた、アイリの安心できる事柄の一つである。
ミーナから事情を聞いた侍女たちは、王の行動に憤り、全員が一緒に行くと言ってくれたものの、大袈裟にしたくないから、と断った。
供は数人。それで十分だ。
私が悪いのよ、と儚く笑うアイリに、彼女たちは何も言えない。私の代わりに殿下方をよろしくねと言われては、頷くしかなかったのだ。
ただ、ファビアーノの行動に憤っているのは、瑪瑙の宮の侍女たちも同じであった。
彼女たちは、怒った様子のファビアーノが玻璃の宮へ行った後に、泣き腫らした顔のアイリが出て行く様子を目撃している。
何かがあったのだな、と思うのも当然の事。侍女の一人がミーナに事情を伺った。
それを聞いた彼女たちは、本来の業務を全て放棄する、とまで言っていたが、流石にそれはミーナが止めさせた。
アイリはそんな事を望まない。今のアイリに必要なのは、静かな場所での休息である。ただ、ミーナも瑪瑙の宮の侍女たちの態度までは、変える事は出来ない。
瑪瑙の宮の侍女たちは、全員が年配で、アイリは自分の子供とあまり変わらない、という者も多い。
陛下はアイリ様の何を見ていたのだ、とアイリに同情する声が多いのも無理はなく、態度が冷ややかになるのはしょうがない。自分が何をしたか思い知ればいい、と侍女たちはこっそり、決意を固めていた。
そんなわけで、アイリの味方は多い。それが救いだった。