きっといつか
「……アイリ様。陛下は、あなたを離宮へ移すと仰せになられました。少し離れた方がいい、と」
「そうね……。私も、ここには居たくないわ」
そんな事を言う日が来るなんて。幸せだと感じていた今のアイリには、考えられなかった。
あろうことか不貞を疑われるとは。悲しみやら怒りやらが、アイリの中で渦巻いている。
確かに言わなかった自分も悪いとは思うけれど、信じてほしかった。くだらない、と一蹴してほしかった。
ぎゅっと唇を噛み締め、アイリは体を起こしながら涙を拭うと、ミーナに問いかけた。
「出立はいつ?」
「あさっての早朝に」
アイリは微かな笑みを浮かべ、服を身に付けて立ち上がる。
「それなら、殿下方に会ってから行けるわね」
「はい。ですが今日は、珊瑚の宮へ参りましょう」
ミーナの提案に、アイリは頷いた。泣き腫らした顔で会っては、心配させてしまう。
最後になるかもしれないと思えば、落ち着いた状態で話したい。そう思った。
「ええ。陛下は、どちらに……」
「玻璃の宮へ行かれたので、ここにはおられません」
その言葉にアイリはホッとした。そんな自分に乾いた笑みを漏らして、瑪瑙の宮をなるべく目立たないように出ると、後ろを振り返る事なく、珊瑚の宮へ戻って行った。