表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/103

嘆きと後悔

「……っ」


静まり返った寝室に、アイリの啜り泣きが響く。シーツに顔を埋めて、さめざめと泣いている。ファビアーノの姿はなく、一人きりだ。出ていく間際、何か言っていたような気もするが、アイリはそれを跳ね除けた。


あのように心を踏みにじられ、屈辱的な事があった後でそのまま、はいそうですか、と納得できるような人間が、一体どれだけいるというのか。少なくともアイリは、そんな心を持ち合わせてはいない。


「もう、嫌……。どうして……」


何かが音を立てて崩れていくようだ。これまで積み重ねてきたはずの何もかもが、無意味になったかのように思えてくる。もはや修復など出来ないに違いない。そんな思いがアイリの中から溢れては、夢のように消えてゆく。


しばらくそうしていると控えめに扉が開き、不安顔のミーナが姿を見せた。ミーナは静かにベッドまで近づくと、その傍らに膝を突く。そしてそっと労わるように、その背中に手を置いた。


「アイリ様……」


ぴくり、と反応したアイリはゆっくり顔を向けると、泣きながらミーナを見つめる。どれほど泣いたのか、真っ赤に腫れた目をしていた。幼い頃にもこんな風に泣いていたアイリをミーナが慰めていたものだが、さすがのミーナも今回ばかりはかける言葉が見つからない。


「……ミーナ。私、もう信じられないわ。何も、陛下でさえも。だって、どうして? あんな文章ひとつで、私を疑うの? どうして私の話を、聞いてくれなかったの?」


泣きながら言葉を紡ぐアイリに、ミーナは胸が痛むのと同時に王への憤りも感じる。アイリの愛を疑う余地が、どこにあると言うのだろう。あの幸せそうな笑顔を見れば、どこから出たかもわからぬ文書などあったところで、一笑に伏せるというものだろうに。


天地がひっくり返ってもあり得ないが、そんな事実があればアイリが隠し通せるはずもない。素直で心優しいアイリに、国王を欺き通せるはずもないのだから。ミーナはそれを百も承知であり、ファビアーノとて知っている筈である。


もっと建設的に、話し合う事は出来なかったのか。ファビアーノがしたのは、アイリの人格を否定する行為だ。いくら夫でも、簡単に許される事ではない。嫉妬心などに振り回されず、泰然自若とした国王でいて欲しかったものだ、とミーナは心中で呟く。


「ねぇ。私、これからどんな顔で陛下にお会いすればいいの……?」


そんな風に嘆くアイリを見つめながら、これから伝えなければならない事は、もしかしたらよい事かもしれない、とミーナは思う。ミーナにとっては、アイリこそが何よりも大事な主である。相手が王といえども、こんな風に泣かせるなんて、許せなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ