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裏切り者はどちら

「これは……」


足元に散らばったそれを、アイリは顔だけ動かして見下ろす。色とりどりの便箋に書かれている字は、すべて同じもの。拾わずとも、アイリには分かる。見覚えがあるのも当然だ。


日々の事を書き記した手紙の、その返事。アイリが望んだ、望んでしまった、エヴァルドとの繋がり。何故それがここにあるのか。それは今や読み返す事もなく、しまわれている筈である。


こうなってしまう前に、陛下に伝えておくべきだった。そう思っても、もう手遅れだ。ファビアーノは荒々しく立ち上がり、机を回ってきたかと思うと一枚を拾い上げ、勢いよくアイリの眼前に突きつけた。


思わずアイリは一歩足を引き、それから目を逸らしてしまう。疚しい内容では無いと言えるが、どれほどの説得力があるだろうか。アイリがその手紙類をしまっていたのは、珊瑚の宮の王妃の寝室。王妃の部屋に他の男、それも元婚約者と交わした手紙がある。それだけで何を言ってもそれはもう、ただの言い訳にしかならない。


「エヴァルドと手紙をやり取りしていたとは、まったく知らなかったな。日付は、最近の物まである。これはどういう事だ?」

「……珊瑚の宮に入られたのですか」

「俺がどこの宮に入ろうが自由だ」


それはそうだ。しかし、王妃個人の寝室に無断で立ち入るとは、国王であろうと無遠慮が過ぎるという物。これまで国王がその場に足を踏み入れなかったのは、王妃を慮ってのことでは無かったのか。


ただ、逆に言ってしまえば、秘め事は全てその部屋で行われる、という事でもあった。そういう例があった事は、アイリも歴史としては知っている。だからこそ、こうまで怒らせているのだ、という事などアイリはとっくに気が付いているのだ。けれど、それでも、唯一の自由を、土足で踏みにじられたような気がした。


アイリは顔を上げると、挑むようにファビアーノを見つめる。それはあの日、初めて会った時と同じ瞳だった。


「それは、ただの友人として書いたものです。お読みになったのでしょう? なればお分かりの筈。ただ一人の友人と手紙を交わすことも、私には許されないのでしょうか。それほどまでに私を、浅はかな女だとお思いなのでしょうか」

「だったらこれは何だ!」


そう言ってファビアーノは、胸元から別の紙を取り出すと、再びアイリに突きつけた。


短い文章が書かれた、一通の便箋である。


曰く、真夜中にエヴァルドが珊瑚の宮へ入り、明け方まで戻らず、明け方アイリが真珠の宮へ戻っていく姿を見た、と。


アイリの不貞を告発する文書であった。


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