表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/103

突然の嵐は花を枯らす

――そうして、二カ月が過ぎたころ。


その日は唐突に訪れた。まるで嵐のように。


アイリがいつものように、真珠の宮でマティアスとエヴェリーナと過ごしていた時である。何の前触れもなく、申し訳なさそうな顔の従者ラウロがやって来て、瑪瑙の宮へおいで下さい、と告げたのだ。


ラウロは詳しい説明をせず、アイリを連れ出した。常の落ち着きがないようで、速足で瑪瑙の宮への道を辿る。その慌てたような様子に、もしや家族に何かあったのでは、と心配しながら早足で向かったアイリは、そのまま王の私室に通された。


そこは、私室でも仕事が出来るようにとこざっぱりとした部屋で、中央に机が置かれている。机の上に置かれた紙束にどこか見覚えがあるような気がして、アイリは少しだけ不思議に思った。


そしてその机の向こうに、ファビアーノは座っている。初めて見る、無表情な顔で。黙りこくって腕を組んでいるその様子は、感情を抑えているようにも見えた。


不安そうな顔のままその正面に立ったアイリは、ファビアーノが口を開くのをしばらく待った。しかし、一向に話し出す気配がない事に堪えきれず、おずおずと口を開く。


重々しい沈黙が、アイリの胸を軋ませた。


「あの、陛下?何があったのですか?」

「……聞かなくとも、心当たりがあるのでは無いか?」


言葉の意味が分からず、アイリは首を振る。何の心当たりかさっぱりだ。ひとまず、家族に何かあった訳では無いと、胸を撫で下ろすが。


ファビアーノは一度静かに目を閉じると、アイリを見つめながらゆっくり口を開く。


「お前は今でも、エヴァルドを好いているのか?」

「まあ。誰がそんなことを?」

「否定しないんだな」


何故そうなるのか、と思ったアイリだったが、その瞳に浮かぶ怒りに気がつき、息をのむ。これは駄目だ、と瞬時に悟った。物分かりが良すぎるのがアイリの悪い癖だが、そう思ってしまうだけの雰囲気がファビアーノにはある。


「……そうして、信じてくれるのですか?」


何を言っても聞いてはくれない。そんな予感を覚えてしまうくらいには、アイリの勘は悪くないのだ。


「いや……、こんなものを見てしまってはな!」


そう言いながら、ファビアーノはアイリに紙の束を投げつけた。アイリは息を詰めて咄嗟に顔を背けるが、散らばった紙が容赦なく叩きつけられる。


幸い、それほど痛くは無かったが、それ以上の衝撃がアイリにはあった。ひらひらと床に舞い落ちてくるのは、何通もの便箋である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ