王の妻となる
三人の笑う姿は本当にそっくりである。アイリが常に側にいるのだから、似るのも当然かもしれない。二人と王妃に血の繋がりが無いことを、初めて見た者は信じられないくらいには。
アイリは変わった。今のアイリは、真実王の妻であり、二人の母親なのだ。でなければきっと、二人の子供たちはこんなにも楽しそうに笑わないだろう。常に穏やかで優しいアイリだからこそ、子供たちもすぐに心を開けたのかもしれない。
これから先、あらゆる困難に直面する事もあるだろう。本当の母親では無い、という葛藤もつきまとう。それでもアイリは、二人の母親になる事を決めている。傍から見ていても、それは伝わってきた。
この調子ならば、いずれアイリも子を産む事になるだろう。その時はまた違った問題も出て来るだろうが、それは自分が心配する事ではない。そして今のアイリならば乗り越えられると、エヴァルドは信じて疑わなかった。
兄王を信じ、アイリを信じる。それがエヴァルドに出来る唯一の事。そろそろ王宮を出る事も考えているが、そうなったとしてもそれは変わらない。離れていても、国王一家への支援は惜しむつもりもなかった。
「さあ、お二人とも。そろそろ宮へ戻りましょう」
えー、と不満顔で抗議する二人にアイリは笑って、先に着いた方にご褒美をあげましょう、と言った。その言葉を聞いた瞬間、エヴェリーナが目を輝かせて駆けて行く。マティアスは少し苦笑した後、エヴァルドにペコリと頭を下げ、ゆっくりと妹姫の後を追っていく。
「エヴァルド様」
それでは私も、と去って行こうとすると、アイリに呼び止められた。何か用事でもあっただろうか、と不思議に思って首を傾げる。
「何でございましょう。陛下に何か言伝でも? しかしそれなら直接……」
「いいえ、そうではありませんの。ただひとつ、あなたにどうしても直接伝えておきたい事があるのです。エヴァルド様。私、とても幸せですわ」
アイリの言葉にエヴァルドは目を瞠ったが、やがて柔らかく微笑んだ。本人の口から聞いたのは初めてで、言ってくれたことを嬉しく思う。その言葉を聞きたかったのだ。
「それを聞けて嬉しく思います。でなければ、兄王様を張り倒していたかもしれません」
「まあ」
「内緒ですよ。さようなら、王妃様」
「さようなら」
二人は背を向け、別々の方へ歩いて行く。これでようやく、思い残す事はない、とエヴァルドは思った。
だがこの時、二人は気がつかなかった。
それを見て、歪んだ笑みを浮かべた者がいた事に。