表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/103

花開く頃

侍女たちがそんな会話をしていた頃、アイリとファビアーノは他愛もない会話をしていた。


「……もう、お戻りになるのですか?」


しばらくして、おもむろに立ち上がったファビアーノに対し、名残を惜しむようにアイリは言った。


無意識だろうか。ファビアーノの服の裾を、軽く摘まむようにして持っている。もう少し一緒にいてほしい、という意思表示に他ならないが、さすがにファビアーノは苦笑した。


掴まれた裾からそっと手を離して、両手で優しく包み込むようにする。互いに同じ思いと知っては、後ろ髪を引かれる思いのファビアーノだが、今日はそうも言ってられないのである。


「もう少し休め。湖に落ちたんだぞ」

「ですが、もう元気です。心配し過ぎですわ。このままご一緒に瑪瑙の宮へ向かっても構わないくらい元気です」


不満そうなアイリに、再び苦笑するファビアーノ。中々に大胆な発言だという事に、果たして気が付いているのだろうか、と。王妃が瑪瑙の宮へ向かう意味は、本来一つしか無いのだから。


アイリの発言が夫を癒したい妻としての物かはともかく、ファビアーノとてもちろん、もっとアイリと長く一緒にいたいと思っている。しかしアイリは病み上がりだ。今後のためにも、ゆっくりと静養して欲しいという気持ちが勝った。


「いや。さすがに今日は止めておく」

「今日、は?」


今日、も、ではないのか、と言外に問う。


「私では不満ですか?」


珍しく少し怒ったような口調で言ったアイリの台詞に、少なからずファビアーノは驚いた。アイリがそんな事を言うとは、夢にも思っていなかったのだ。


言った本人も驚いていたが、発言を翻す事は出来ない。そのつもりも無かった。とっくに、心の準備は出来ている。ファビアーノへの思いを自覚した日から、待ち望んでいた。


訴えかけるような瞳にファビアーノは苦笑して、アイリの手の甲にキスを落とす。これは不安にさせていた事への謝罪と、今後はそんな真似はしないという誓いの為に。ちいさな音を立てて離すと、アイリに柔らかな笑みを向けながら言った。


「そうじゃなくて、少し時間が必要だろうと思っていたんだ。初めての夜にあんな泣きそうな顔をしていたら、誰でもそう思うだろう」

「そんな顔を、私はしていましたか?」

「気が付いていなかったのか」

「はい。まったく」

「まあいい。明日の夕刻に使いを出す。いいか?」

「……はい。お待ち申しあげておりますわ」


花が綻ぶように笑って、アイリはファビアーノを見送ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ