表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/103

安堵の吐息

扉の前から引き上げて来た侍女たちに、居間で待ち構えていたミーナが口を開いた。アイリが湖に落ちたと聞いてから、他の侍女たちに宥められる程、ミーナはずっとそわそわとしていたのだ。


「どうでした? アイリ様は?」

「お目覚めになられたようですわ」


そう聞いてミーナは安堵した表情を浮かべる。張り詰めていた緊張が、一気に解けていくのを感じた。


そのせいか、ふらついてしまった体を、侍女の一人が支える。


「ミーナさん、こちらにお座りになって。もうひとつ、嬉しいお知らせがありましてよ」


楽しそうな彼女に首を傾げる。すると他の侍女たちもやって来て、近くに腰を落ち着けた。


働きなさい、と言いたい所だが、気になるものは気になる。子供達は部屋で寝かしつけているし、夕食の支度にはまだ早い。


そう結論付けて聞く姿勢になったミーナに、彼女は微笑みながら口を開いた。


「陛下とアイリ様がようやく、お互いにお気持ちを確かめ合ったのですわ」


それが盗み聞いた事だろうとは、容易に想像がつく。しかしあえて流す事にして、ようやくですか、と苦笑する。


他の侍女たちも同じ気持ちだったようで、口々に口を開いた。


「本当に。いつもやきもきしていたもの」

「ね。こちらから見ていても、お二人は相思相愛なのに」

「どこか遠慮がちだったから、心配だったくらいよね」


侍女たちは、いつになったら夜のお召しの支度が出来るのか、と、今か今かと待っていたのである。


この思いは、真珠の宮の侍女たちも同じだった。元主のマリッカが気に入ったのだから、嫌う理由はどこにもない。


それに何より彼女たち自身、アイリが好きになっていた。あの優しく素直な人柄に、惹かれずにいられようか、といった風情である。


「マリッカ様もよく言っていらしたわ。いつになったら、アイリ様を瑪瑙の宮へ呼ぶのかしら、と」

「あら、それはいつの話?」

「まだ誰にも病気の事を言っていない時に。マリッカ様は、アイリ様が陛下の寵姫になれるかどうかを、見ていらっしゃったの。そして、二人の子供達を、任せられるかどうかを」

「ではもしかしてあのお茶会は、そういう意図があって……?」

「ええ。瑠璃の方だけだったらどうしようかと思っていた、と言っていた事もありましたね」

「そんなに前からもう、先の事を見据えていらっしゃったのね」


途端にしんみりしてしまった空気を変えようと、黙って聞いていたミーナが口を開く。


「その思いに応えるために、私たちも頑張らなければなりません。きっとこれから、さらに忙しくなりますよ」


ミーナの言葉に侍女たちは笑って、嬉しそうに頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ