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神のいたずら

「そんなに走っては転んでしまいますよ」


そうアイリが言うのと同時に、まるでその言葉が引き金になったかのように、マティアスは石か何かに躓いて転びそうになる。そのまま転けたら、顔面を強打してしまうだろう。侍女も慌てた顔をしたが、おそらくマティアスがこける方が早い。


「殿下!」


助けなくては、と思いながらアイリはマティアスの元へ向かおうとした。ただその時、自分が何処にいるのかがすっかり頭から飛んでいたのだ。あ、と思った時にはもう遅い。足を踏み出そうとした先には水しかなく、アイリは手を伸ばした姿勢のまま湖に落ちた。


マティアスは転けたが、その顔は驚きで固まっていて、泣くどころではない。ただ呆然とした顔で、大きな波紋を立てている湖面を見つめていた。アイリ様、と誰かが叫び悲鳴が上がる。


湖は思っていたよりも深く、身に付けている衣装が水を吸って重くなっていった。それに何より、アイリは泳げない。必死に顔を上げようとするが、藻掻けば藻掻くほど、沈んでいきそうだ。こういう時どうしたらいいのか分からず、アイリには為す術がない。


「アイリ!」


誰もが息をのみ、一瞬動けないでいる中、真っ先に動いたのはファビアーノで、それから一拍置いて護衛兵たちが続いた。侍女の一人がマティアスを助け起こし、別の侍女は毛布を取りに走る。周りの慌てる様子に目が覚めたエヴェリーナは、何が起きているのかと不安そうな顔で隣にいた侍女にしがみついた。


そうこうしているうちに、上着を脱ぎ捨てながら、ファビアーノは止める声に構わず湖に飛び込んだ。そして、藻掻き苦しむアイリを何とか引きずりあげると、荒い息を吐く。


岸に上げられたアイリは咳き込み水を吐き出すが、意識はなくぐったりと横たわる。呼びかけても反応のない様子に、ファビアーノの顔から血の気が引いた。失ってしまうかもしれない。その恐怖に胸が押しつぶされそうになる。


「陛下。しっかりなさいませ。一刻も早く王宮へ戻りましょう。既に護衛を一人向かわせました。こちらが到着する頃には、医者の手配が出来ておりましょう。離宮の方が近いですが、何の準備も出来ていませんからね」


そう言ったのは、常に冷静なラウロ。それがファビアーノを、恐怖の淵から立ち直らせてくれた。ラウロの言葉に頷いたファビアーノは、アイリを横抱きにして立ち上がった。


「戻るぞ」


ファビアーノのその声を合図に、穏やかな空気から一変、慌ただしく、一行は湖を後にしたのだった。


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