表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/103

幸せを噛みしめる

「疲れてないか?」


気遣うファビアーノに、アイリは笑って首を振った。確かに疲れる事もあるが、それは心地よい疲れであった。そして、マティアスとエヴェリーナの笑顔を見れば、疲れなど吹き飛んでしまうのだ。


ただ静かに暮らす事を望んでいた、輿入れ当初の自分とは大違いだ、とアイリは少し笑う。もうエヴァルドの事で悩むことは無くなり、前向きに考えられるようになってきた。


相変わらず時々手紙のやり取りをしているが、書く事と言えば子供たちの事ばかり。幸せそうで何よりです、というエヴァルドからの返事を読んだ時、ああそうか、と納得したのを覚えている。自分は今、幸せを感じているのだと。


「以前よりも忙しいですけれど、毎日楽しいですわ」

「それならいいが。無理はするなよ」

「はい。ありがとうございます」


その言葉に頷いて、開け放たれた扉の向こうから聞こえてくる笑い声に耳を澄ませる。楽しそうな笑い声は、毎日聞いても飽きる事は無い。


マリッカもこうして過ごしていたのだろうか、と思うと胸が痛んだ。あの儚い笑顔で、最後まで子供たちを気にかけていた。だからこそ、マリッカの想いを無駄にしてはいけない、と墓前に花を捧げて誓ったのだ。


自分は母親にはなれないが、せめて、姉のようでありたいと願っている。一緒に学んで、一緒に成長していけるような。そんな家族になりたいと。


「あの子達はよい子です。マティアス殿下は幼いながら気遣いの出来る子ですし、エヴェリーナ殿下は笑った時のえくぼが愛らしく、お二人とも将来が楽しみですわね」

「その為には、俺たちもお互いに頑張る必要があるな」

「本当に。責任重大ですわ」

「そうだな」


ふ、と口許に笑みを浮かべたファビアーノを見つめ、アイリは今の素直な気持ちを口にした。


「陛下。私を養育係にしてくれたこと、感謝しております。今の私は、とても幸せ者ですわ」

「アイリ……」


感慨深げに囁き、ファビアーノはそっとアイリの頬に触れると、静かに唇を重ねた。離れた時、アイリは照れ臭そうにはにかんだ。


しかし、ファビアーノは何故かわずかに顔を歪めて立ち上がる。手が離れた事に、アイリは物足りない思いがしていた。同時に、そんなことを思った自分に苦笑を零す。


「……陛下。お戻りですか?」

「明日は、皆で湖に行こう。準備しておいてくれ」


そう告げると、ファビアーノはまるで逃げるように部屋を出て行った。


戸惑いながらそれを見送り、一人取り残されたアイリは、物憂げなため息を吐いたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ