家族団欒
やがてファビアーノが訪れると、揃って居間に腰を落ち着けた。侍女たちは壁際に並んで控え、家族を見守る。アイリと子供たちに血の繋がりは無くても、仲睦まじく過ごす様子はもう家族にしか見えない。
侍女たちにとって、その四人の様子を見るのが何よりもの楽しみになっていた。その光景こそ、マリッカが自分の代わりにと願ったもの。それを知るマリッカ付きだった侍女たちは、その望みをアイリが叶えてくれると信じている。
アイリは微笑みを浮かべて、ファビアーノが子供たちと遊んでいる様子を見つめた。今日はパズルをするようで、親子三人で悩んでいる様子が微笑ましい。時にはエヴェリーナに本を読んだり、マティアスの勉強を見たり、ファビアーノも楽しそうに子供たちと接していた。
こうしてファビアーノがここを訪れるのは、子供達に会いに来ているからだ。アイリはいつもそう思いながらファビアーノに接しているし、そう考えるだけの理由がアイリにはあった。
何故なら、夜に瑪瑙の宮へ呼ばれる事が無いから。輿入れして、既に一年も経つと言うのに。いつも宮の寝室で一人、ため息を吐いてしまう。けれどもそれに関しては、何も言う事は出来ない。夜の召し出しを期待しているなんて恥ずかしくて、言えるわけが無かった。
マリッカには以前、遠慮する事は無いと言われはしたけれども。自分から誘うなんてはしたないと思ってしまうし、そもそもれほどの自信も無い。きっと自分に魅力が無いからよね、と思っているアイリには難しい相談だ。
だからアイリは、二人の成長を楽しみに、毎日を過ごすことにしている。こうやって役割を与えてくれた事が、アイリには嬉しかったから。忙しくしていれば、余計な事を悩まなくても済む、という考えもない訳では無かったが。
養育と言っても、アイリがしていることは、一緒に生活をして、勉強やマナーなどを教えることくらいだ。最初はそれ以上をやろうとして、一人で焦っていた。そんなアイリを、何のために侍女がいるのか、と窘めたのはミーナである。
全員を取り纏める存在が必要だ、という事で侍女長となったミーナはどこか貫禄がついたようで、頼もしく思えたものだ。それからは、役割分担を決めることで、アイリにも余裕が生まれて、穏やかな日々である。
やがて、子供たちが数人の侍女たちと中庭へ出ていくと、ファビアーノがアイリの隣に来て腰を下ろす。残った侍女たちはこっそりと視線を交わし、気を利かせたのか静かに下がっていくと、後は二人きりになった。