笑い声の満ちる宮
「──マティアス殿下。エヴェリーナ殿下。どちらですか?」
階段を上がりながら、アイリは呼びかけた。仲のいい兄妹はいつも一緒になって遊び、気がつくとどこかへ駆けていく事もしばしば。
先日誕生日を迎え七歳になったマティアスは、普段はおとなしい方なのだが、やんちゃなエヴェリーナと一緒になると、途端にいたずらっ子の顔を覗かせる。一つ下のエヴェリーナもそんな兄が大好きなようで、楽しい笑い声がよく聞かれた。
マリッカの教育のおかげか、二人とも黙って外に出ることが無いのは良いが、特定の場所には居ないため、捜す方は大変である。しかしアイリにとってはそれも楽しい。小さい頃は、自分も同じようにして弟と遊んでいた事を思い出すから。
やがて階段を上り、一つ目の部屋に差し掛かったとき、子供の笑い声が聞こえた。そこは侍女の部屋の一つだったが昼間は無人のため、子供たちにとってはよい隠れ場所になっている。さすがにアイリの部屋に勝手には入らないが、侍女たちの部屋はお許しが出ているので、そこで二人仲良く眠っていた、なんて事もあった。
アイリがノックしてから扉を開くと、ぱっと二人が振り返る。ぱちくりと瞬きをした二人はアイリの姿を認めると、揃って満面の笑みを浮かべた。
「アイリ様!」
嬉しそうに笑いながら近寄ってくる二人に笑いかけて、アイリは目線を合わせるように膝を突いた。マティアスもエヴェリーナも、マリッカに目元がそっくりだ。それを思うと未だ胸が締め付けられるが、子供たちにそんな顔を見せてはいけない。
「もうすぐお父様がいらっしゃいますから、支度をしましょう。お部屋で侍女たちが待っています。ご自分で行けますね?」
二人の部屋は、アイリと同じく三階にある。二人は揃って頷くと、マティアスがエヴェリーナの手を引いて、軽い足取りで駆けていった。
その背中を微笑みながら見送って、アイリも立ち上がる。ファビアーノはこうして、毎日のようにやって来るのだ。子供達も嬉しいようで、訪れに大はしゃぎしている様子を見るといつも心が和む。
もちろんアイリも嬉しくて、自然と足取りも軽くなる。階下へ降りると、侍女たちがファビアーノを迎える支度を急いでいた。
アイリは女主人らしく、ゆったりとソファに座ってそれを眺める。この忙しさも、アイリが愛されているが故だと、ミーナが嬉しそうに言うと、侍女たちも揃って同意した。
言われた方のアイリとしては、それはどうだろうか、と思っているのだけれど。