友人として
そんな日々が過ぎた頃、アイリはマリッカの元を訪れていた。居間のソファに並んで座ると、その腕の細さに目が行ってしまう。極力腕を出さないドレスを身に着けていても、それははっきりと分かった。
「少し、痩せましたか」
アイリの問いかけに、そんな事無いわよ、とマリッカは笑った。そして、そんな事より大事な事がある、とばかりに口を開く。
「陛下はどう。最近は行っているでしょう?」
「ええ。ずっと来ていなかったのは、祭りの件で忙しかったからだそうです」
素直にそれを信じている姿が健気だ。マリッカはそんな事を思いながら、明るい声で話を続ける。
「そんな風では、愛想を尽かされてしまいます、と陛下に言って差し上げたの。そうでもしないと、動かないのでは無いかと思って。うまくいって良かったわ」
「マリッカ様は、陛下をよく見ていらっしゃいますのね」
「あなたもでしょう、アイリ様」
「え?」
「だって弟君の婚約者だったのに急に王妃になって。何も知ろうとせずにいることだって、あなたには出来たのよ。私ならそうする。けれどあなたは陛下を知ろうとして、そして、好きになったのでしょう?」
優しく笑って言われて、アイリは素直にそれに納得することが出来た。そうか、自分は陛下が好きなのだ、と。
「……ええ。そうでしたわ。ところで、マリッカ様は、何故陛下をお好きになったのですか?」
「そうねえ。優しかったからかしら。そうそう。まだ王太子だった頃はもう少し可愛らしかったのよ。だけど、王になってからは急に大人になったみたいで、少し寂しかった事を覚えているわ。だけどね、合間を見つけては会いに来てくれていたの。そういうところを好きになったのよ」
「陛下は幸せですね。マリッカ様に愛されて」
「その言葉、他の人から聞いたら嫌みみたいだけど、あなたに言われたら、怒る気がしないのよね。不思議だわ」
マリッカが笑って言うと、アイリも微笑みを浮かべる。マリッカに対して抱いていた苦手意識はもう無く、友人と呼べる距離感になった。
「私の実家はね、二人が生まれた後も何かとうるさかったの。あなたが来た時もそうだったわ。近づけさせるな、とさえ言われて。だけどこれで良かったのよね。私、あなたが好きだもの。あなたになら任せられるわ」
「マリッカ様……」
アイリには、そのマリッカの姿がいつまでも目に焼き付いている。近寄る死の影も見せず、まるで少女のように笑っていた。
そして、この日から三か月後、マリッカは静かに息を引き取ったのである。