お茶会の席にて
その夕食から一か月後。
ファビアーノは、アイリの前にぱったりと姿を見せなくなった。これまで毎日来ていたのに来なくなれば、気になるというもの。病気でも患っているのかと思い、エヴァルドにそれとなく手紙を書いたが、元気であるという返事が来ただけだった。
それに安堵したものの、もやもやとした気持ちは晴れない。急に来なくなってしまった理由を、ファビアーノに問いただす事も出来ず。だが、アイリはそんなそぶりは見せる事は無くいつものように笑って、日々を過ごすように心がけている。
「どうしたのでしょうね」
ミーナや侍女たちもそう言って首を傾げていたが、アイリに答えが出る筈もない。忙しいのでしょう、と言って、その問いを終わらせた。
もし万が一、王が病気となれば、その妻である王妃たちには必ず知らせが来るはずだ。そうでないのだから、祭りもすると言っていたし本当に忙しいのか、もしくは他の王妃の元に行っているだろう、とアイリは結論付けたのだった。
そんなある日の事。アイリは相も変わらず真珠の宮に招かれ、マリッカとオネルヴァの三人でお茶をしていた。いつの間にか恒例と化しているが、緊張し通しでまったく休める気がしない。
王妃が三人そろって何を話すかと言えば、王の事か、王子と王女の話、侍女が里帰りした時に拾った貴族たちの噂話などが主だ。マリッカばかりがしゃべり、オネルヴァは常にそれを肯定する。アイリは、当たり障りのない相槌を打つくらいのもの。
居心地の悪さがこの上なかったが、途中退席も出来ないアイリは、愛想笑いを浮かべている事しか出来ない。少しずつ慣れてはきたものの、宮に戻ればどっと疲れが押し寄せる。その度に侍女の誰かが淹れてくれる甘い紅茶が、アイリの癒しとなっていた。
かつての王妃たちもこうやって過ごしたのだろうか。それとも、まったく関わり合おうとはしなかったのか。昼間は自分の宮で過ごし、夜は王からの御召しを期待する。もしかしたら、自分たちと同じく毎日のようにお茶会をして、互いに牽制し探り合っていたのかもしれない。
微笑みの下でそんな事を考えながら、アイリは気を紛らわせていた。お茶とお菓子は美味しいけれど、もうそろそろお開きにならないかしら、とアイリが外に視線を向けた時、変化が起きる。
ガチャン、とガラスが割れたような音がした後、マリッカが胸を押さえて苦しみ出したのだ。始めは机の端を掴んでいたが、やがて椅子から床に崩れ落ちてしまった。