恨み言
「――よろしいのですか?」
からかうような口調で言われ、ファビアーノはうっとうしそうな顔をした。横を見れば、後ろに控えていたはずの従者ラウロが立っており、意地の悪そうな笑みを浮かべている。
乳兄妹である一つ年上のこの従者は、人前では決して見せないものの、主に対してとは思えない態度を取る事がある。幼かった頃など、どちらが主か分からなくなりそうなほどだった。
それでも側に置くのは、有能であり信頼出来るからであるが、こういう時は少し腹立たしい。二十五歳にもなった王が何をしている、とその顔に書いてあるような気がしたから余計に。
「よろしくはない。が、仕方ないだろう。明らかに身構えたじゃないか。そもそも、最初からその気で夕食に誘ったわけではない」
「初夜を済ませておいて一体何をおっしゃっているのやら」
「ラウロ。相変わらずはっきり言うな、お前は」
「それが私の良い所だと自負しておりますので」
わざとらしい礼をしながら涼しい顔で言ってのけるラウロに、思わずため息を漏らす。この男には剣でも口でも勝てたためしが無い事を、改めて思いだしたファビアーノである。
とはいえ、こういった事を相談できるのはラウロだけなのだから仕方がない。
「……アイリは、俺を恨んでいるのではないだろうか。髪色が珍しいというだけで、エヴァルドから奪い妻に召した。それはアイリも、最初の日に気が付いたはずだ」
「そうでしょうね。この髪色でなければ選ばなかっただろう、とおっしゃっていましたからね」
アイリの言葉を湾曲したラウロの言い様に、ファビアーノは思わず首を傾げていた。あの時、アイリの言葉に真っ先に反応したのはこの従者である。剣の柄にさりげなく手をかけたのが目に入ったから、その気を逸らせるためにファビアーノは立ち上がったのだ。
でなければ、わざわざ立ち上がったりしない。マリッカの時もオネルヴァの時もファビアーノは座ったまま、軽く挨拶を交わしただけだった。
それを知っているからラウロは、あの時の一瞬は不敬だと思ったのだとしても、今となっては面白がっているだろう。
「お前のようにはっきりとは言ってなかった気がするが。とにかく、確かに今はアイリの人柄を好ましく思うが、最初のきっかけがそうなのは事実だ」
「それに、エヴァルド様の婚約者を奪った形ですし。それも後ろめたくなってきたのですか」
それもまたはっきりと言われ、ファビアーノは苦笑する。
エヴァルドは、その件に関しては口を噤んでいる。祝いの言葉は言われたが、それは形だけだろうと思っていた。