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楽しい夕べ

食堂へ通されたアイリは、ファビアーノの正面の席に腰かける。


アイリがファビアーノとここで夕食を摂るのは、実は初めての事だ。大体王妃というものは、夜の召し出しが無い限り、瑪瑙の宮を訪れる事は無い。食事などは全て、それぞれの宮で侍女たちが用意する。だから、他の二人は分からないが、アイリの場合は侍女たちと一緒に食事をする事が常である。


そういう理由もあって、少し緊張した面持ちのアイリだったが、ファビアーノと他愛もない会話をしているうちに、気にならなくなってきた。食事が運ばれてくるころには、すっかりいつものアイリの姿がある。


王の普段の夕食は、晩餐会などと違い、テーブルに溢れるほどの料理が並ぶわけでは無い。確かに庶民よりは高い物を口にしてはいるが、品数は同じくらいである。


これまでの王の中には、毎日豪勢な食事をしていた者もいたが、そんな金があったら国を潤す方に使う、というのがファビアーノの考えであるためだ。


王の権勢を保つための必要経費もあるが、国民の為の金も惜しまない。そして、積極的に街へも行き、直接話を聞く。さらに、よい意見があれば採用してくれる。そんな王の支持が高くなるのは、当然の事である。


「今度王都で祭りを開こうと思っているのだが、アイリはどう思う?」


しばらく経ち、アイリがデザートを食べ終えたのを見計らって、ファビアーノが口を開く。意見を求められたアイリは少し目を丸くしたが、どこか嬉しそうだ。


「よい考えかと存じます。お祭りにはたくさんの人が集まりますし、何より楽しいですわ。幼い頃、母の国のお祭りに行った事があるのですが、雪の国なので氷の彫刻がたくさんあって、夜の遅い時間でもお店の明かりが灯っていました。あの時見た花火はとても美しかったので、今でも覚えています。深夜まで起きていても叱られませんでしたし、それに……」


嬉々として話していたアイリだったが、ファビアーノが微笑んでいるのを見て、急に恥ずかしくなった。王都で祭りを開催したところで、王妃が見に行けるわけでは無い。それに一人ではしゃいで、子供みたいだと思われただろうか、と。


けれどファビアーノは、貴重な意見だったと笑った。その笑顔につられてアイリも笑ったところで、ファビアーノが立ち上がる。


その動きにほんの一瞬、アイリの表情が固まったのを、ファビアーノは気がついたのかもしれない。


「もう遅い。珊瑚の宮まで送らせよう」


そう言って、アイリを送らせるために衛兵を呼びにやる。アイリは瞬きをして、無意識の内に口を開いていた。


「え?よろしいのですか?」


てっきりこのまま、と思っていたため、アイリはそう言ってしまったのだ。


自分の気持ちも定まっていないのに、なんて事を言ってしまったのか、と恥じ入るアイリを見つめながら、ファビアーノはこっそりとため息を吐いたが、アイリは気が付かない。


衛兵がアイリを連れて出て行くと、ファビアーノは深いため息とともに、椅子に沈み込んだ。


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