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弟には甘くなる

アイリはティーカップを手に取ったが口には付けず、赤茶色の液体を見つめる。自分の顔が、ゆらゆらと揺れている様子が、まるで心を映しているようだと思った。


「……確かに制限も多くて、息が詰まる事もあるわ。でもそう思うのはきっと、まだ慣れていないせいだと思うの。私は王妃になったのだから。そんな事言ってはいけないわよね」

「それを聞いて安心しました。自覚はおありだったようで」


姉に対して失礼な言い草だが、怒る気にはならない。他の者に言われたら怒ったかもしれない事も、ヴィルヘルムに言われるといつもそうだった。穏やかな口調と笑みが、アイリを優しい気持ちにしてくれているのかもしれない。


口元に自嘲気味な笑みを浮かべて、アイリはカップを置いてヴィルヘルムに目を向けた。今日来たのがヴィルヘルムである理由は、仲が良く、可愛がっていた弟だからという事を、アイリは理解している。


両親や兄相手には言えない事も、弟には話してくれるかもしれない。たとえそれが、そのまま筒抜けるのだとしても。穏やかで人当たりの良い弟を前に、うっかり口を滑らせることを期待されているのだろう。


王妃となった以上、最も期待される事は王の子供を生む事。けれどアイリの瑪瑙の宮への夜の呼び出しは無い。このまま時が過ぎるのは、父侯爵としては面白くない筈だ。まだこのまま穏やかな時を過ごしていたいアイリと違い、一刻も早く、と願っている事は間違いない。


まだひと月で気が早い、とアイリとしては言いたいところだが、そんな事言ったところで、王の歓心を得る事にこそ励め、とでも言われるだけである事は明白だった。


「ねえ。私に何か言いたい事があるのではないの?」


そう問いかけられたヴィルヘルムは、涼やかな微笑みを浮かべた。この笑みの虜になった女性がどれほどだったか、アイリは知っている。本人は無自覚だからこそ質が悪い。


早く結婚相手を決めろと侯爵にせっつかれても、のらりくらりとかわし、多くの女性をやきもきさせているようだ。我が弟ながら、罪な男だ、とアイリはそれを聞く度に思うのだった。


ヴィルヘルムは勿体ぶるように紅茶を飲み、ゆっくりとカップを戻してから口を開いた。


「実は、とある話を耳にしたのですけどね」

「何かしら?」

「国王陛下と第三王妃様は、夫婦と言うよりは友人か兄弟のようだと」


一体誰からそんな事を聞いたのか、とは問いただすまでも無かった。昔からヴィルヘルムに弱いのは、何も家族だけではない。


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