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思い出語り

謝るファビアーノに、アイリは慌てて首を振る。国王に謝られるなんて、いくら夫婦と言えども恐縮してしまうというものだ。


「陛下、謝らないでください。確かに色々と制限はありますが、もう慣れてしまいました。それに、今日はこうして誘っていただいたので、よい気分転換になりましたもの」


微笑みながらのその言葉に、ファビアーノは笑った。気が抜けたような、ホッとしたようなその笑みに、アイリは少しドキリとした。我知らず、胸元で手を握りしめる。


そんなアイリの様子には気づかず、ファビアーノが口を開く。


「アイリは優しいな。昔からそんな子供だったのだろうな?」

「どうでしょうか。小さい頃は、兄に悪戯をしては、叱られていましたわ」

「想像がつかないな。おとなしく本でも読んでいそうだ」

「家族には今の私の姿の方が、想像がつかないと思いますわ。昔は本当に、屋敷で駆け回っておりましたもの。そういえば、お母様がいい加減しびれを切らすまで、遊び相手は男の子ばかりでしたわ」

「そうなのか?」

「はい。特に弟のヴィルヘルムとはそれほど年は変わりませんから。彼の友人や下働きの子たちと一緒になって。それこそ泥だらけになるまで」

「アイリもそうだが、ヴィルヘルムの方も想像がつかないな。一度しか会っていないが、彼は物腰柔らかい印象だった」

「それは表の顔ですわ。ヴィルには本当に困らせられた事もあるのです」


ふふふ、と楽しそうに笑いながら、アイリは昔話をする。それをファビアーノは優しげに笑い、時折相槌を打ちながら聞いていた。それを微笑ましく侍女たちが見守っているのが、ここ最近のよく見られる光景だった。


穏やかで優しく、まるで真綿に包まれたような柔らかな時間。こんな夫婦の形もいいのではないか、とアイリは考えていた。今の二人は、どちらかといえば友人のようだ。少しずつ歩み寄りつつも、まだ夫婦と呼べるかどうかは分からないけれど。


父侯爵が、やがて何か言ってくるかもしれない、という懸念がアイリにはある。このまま子供が出来なければ、流石に体裁が悪いだろう。父侯爵としては、子供の一人くらいは確実に、と思っているに違いない。


そうは言っても、アイリにはまだ無理だというのは、分かりきっている。ファビアーノはそれに気がついているのかもしれない、と時々思うこともあるが、見ないふりをして来た。


やがては来るだろうが。それでもまだ、このままでとアイリは願っていたのだった。


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