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三番目の王妃

やがて部屋の中央に辿り着いた彼女は、そこで膝を折った。一段高くなった正面の椅子に座る人物に向かって、言葉を発する。


「お初にお目にかかります、ザヴィカンナス侯爵が娘、アイリ・ソフィア・ザヴィカンナスにございます。これよりは誠心誠意、国王陛下に仕えさせていただく所存にございます」


細身の割に張りのある凛とした声が響く。声が震えなかった事に、彼女、アイリは安堵した。こんなところで、弱さを見せたくは無かったから。それが、この日を迎えるまでに、アイリが決意したことだ。


「……面をあげよ」


頭を垂れるアイリに向かって、正面の人物が口を開く。低めの力強い声だった。顔を上げたアイリの目に映ったのは、栗色の髪を後ろへ撫でつけた、少し目付きの悪そうな男だ。


彼こそ、このレトニア国の王、ファビアーノ・ロザリオ・ド・サラチェーニ、その人。偉大なる国王を前にして、目つきが悪いなどと思った事は、アイリの一生の中でただ一つの秘密である。


ファビアーノが、前国王の病死により弱冠二十歳で国王となって早五年。前国王が後回しにしていた街の整備や、街道の舗装などを積極的に行い、国民からの支持も厚い。賢王と呼ばれるようになる日も近いだろう。


そしてアイリは今日から、王妃になるのだ。ただし、国王三番目の。


その知らせを聞いた時の衝撃を、アイリは今でも鮮明に思い出せる。もう泣かないと心に誓ったはずなのに、涙が出そうになってしまうほどに。


ファビアーノはしばらくアイリを見つめて、不意に口元に笑みを浮かべた。笑うと、きつい印象が少し和らいだ。


「なるほど。近くで見ると、ますます珍しい髪をしているな」


そういうことか、とアイリは目を伏せながら思った。弟の婚約者であった女を召し出したのは、この髪のせいなのか、と。王妃となると告げられてから、ずっと不思議に思っていたのだ。この国の美しいとされる基準に、自分は当てはまらないと知っていたから。


アイリは、ファビアーノを睨み付けたくなるのを、必死で我慢しながら口を開く。王の言葉を無視する訳にはいかない。ここで噛みつこうものなら、一族連座で罪に問われてしまう。


「……母が遠国の生まれですので。お気に召さなければ染めることにいたします。そうすれば、悪目立ちして、陛下にご迷惑をかけることもないでしょうから」


若干の嫌みを込めた言葉に、ファビアーノの後ろに控えていた従者が反応した。ファビアーノ自身は気にせず立ちあがり、アイリの前に立つ。


アイリ精一杯の強がりも、この王の前では無意味なようだ。


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[気になる点] >ただし、国王三番人目の。 “三人目の”でしょうか?それとも“三番目の”でしょうか?
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