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風に乗る

栗毛の馬が野原を駆けていく。その後ろをわずかに遅れて走るのは、黒い馬である。さらにその奥には馬車も走っているが、距離は遠い。


空はよく晴れて雲ひとつなく、時折吹く風は爽やかだ。二頭の馬が向かっているのは、野原を駆けた先にある湖。


それは王都から少し離れた森にあり、一般人は立ち入れない王所有のものだ。ならず者が入らないように柵があり、警備兵も巡回している。


先に森の前まで辿り着いた栗毛の馬から、軽やかに地面に降り立ったのは、アイリだった。すらりとした体躯に、黒の乗馬服がよく似合っている。


続いて馬から降りたファビアーノが、思わず苦笑を浮かべた。こちらは深紅の乗馬服をスマートに着こなしている。


「好きだとは聞いたが、まさかここまでとは」


感嘆するようなその言葉に、アイリがはにかむように笑う。いたずらが見つかってしまった、とでも言うように。


遠乗りに誘われた時には、なるべく大人しくしていよう、と思っていたにも関わらず、気持ちが高揚してファビアーノを追い抜いてしまったのだ。


本来なら横座りするものを、跨がって乗った時点で、結果は目に見えていたが。とはいえ、それだけで立腹するほど、ファビアーノの心は狭くない。


素直に感心していたし、アイリは決しておとなしい娘では無いと、知ることも出来た。それは、ファビアーノにとってよい収穫だった。


「さすが、ザヴィカンナス侯爵も褒めるはずだな」

「父がですか?」

「ああ。素晴らしい乗り手だと聞いた」

「素晴らしいのはこの子ですわ。ね、イナンナ」


微笑みながら栗毛を撫でる様子を、ファビアーノが優しく見つめる。その馬は、あの宴の数日後に与えたものだ。


アイリはイナンナと名付け、時間が空けば厩舎へ出向き、世話を手伝う事もあると聞く。貴族の娘は普通そこまでしない。そもそも、一人で馬に乗ることはあり得ない。


移動には馬車を使えばいいし、馬に乗るにしても、必ず手綱を引いてくれる従者を必要とする。だからファビアーノも実は、乗れると言ってもその程度だろう、と思っていた。


「この奥に湖がある。ゆっくり歩いて行くことにしよう」

「はい。楽しみですわ」


森の入り口の衛兵に敬礼と共に出迎えられ、二人は馬を引きながら並んで歩き出す。木漏れ日の降り注ぐ森の小道は整備されているため、苦もなく足を進める事が出来た。


この森は数代前の国王が、一人になる時間が欲しいという理由で整備され、代々の国王へ受け継がれている。ファビアーノも何度か従者を伴い訪れたが、王妃を伴って来たのは初めての事だった。


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