オネルヴァ・ヴェシサーリ
瑠璃の宮へと帰り着いたオネルヴァは、侍女へお茶の用意をするように指示をすると、居間のソファへ腰をおろす。柔らかすぎず硬すぎないそれが、彼女のお気に入りだった。
そこへすかさず、侍女たちがやって来て口を開く。皆同じような顔立ちのせいで、オネルヴァは名前も覚えていないが。覚えなくても特に問題はないため、そのままにしている。
「第三王妃様はいかがでした?」
「ああ。大した事は無かったわよ。髪の色が珍しいだけなんて、陛下もきっとすぐ飽きるわ」
「それはようございました」
微笑みながら言った侍女に、オネルヴァは肩にかかった髪を後ろへ払いながら、満足そうな表情を浮かべる。
オネルヴァの侍女たちはいつも、望む答えしか返さない。主人の気持ちを察せない者はいらない、というのがオネルヴァの考えだ。ゆえに侍女の入れ替わりが激しいが、気にするオネルヴァではなかった。
それが当たり前だったのは、父がそういう者たちを選んだから。だからオネルヴァの周りにいるのは、いつも笑って頷いてくれる者たちばかり。
端からみれば奇妙な光景でも、これが日常なのだ。否定しない者しかいないのは、居心地が良い。誰も彼女を咎めない、怒らない。小さい頃からずっとそうだった。だからこれが、オネルヴァには当たり前。
自分がどれほど世間知らずかを、オネルヴァは知らない。
「それにあんな小娘では、陛下も満足できないでしょう。見るからに不健康そうだったもの」
「もちろんそうでございましょう。我らがオネルヴァ様こそ、王妃と呼ばれるに相応しいお方」
「そうですわ。あのアハティアラの娘などよりもずっと」
「こんなにも美しいあなたの魅力に、陛下もお気づきでしょうに。焦らすのがお上手ですわ」
次々に褒めそやす侍女たちに、オネルヴァはさらに笑みを深くする。初夜以来、王からのお召しが無いことなど、忘れ去っているのかのように。オネルヴァにはもはや、それはどうでもいい事。自分が国王を愛してさえいれば。
「そうね。けれど、それを黙って受け入れるのも、わたくしの務めよね」
ふう、と訳知り顔で息を吐いて、運ばれて来たお茶を口にする。と、すぐに笑みを浮かべて、お茶を淹れた侍女を見つめた。
「あなたのお茶は最高だわ。あちらのお茶は苦味が強くて」
「恐れ入ります」
ニコリと笑って、侍女は一歩後ろに下がる。
新たな王妃が来ても、オネルヴァの日常は変わらない。楽しい囀ずりを聞かせてくれる小鳥たちの中で、ただ笑っていればいい。