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母親としての顔

「あ、エヴェリーナ。待っててって言ったのに」


しょうがないな、と言いながら部屋に入ってくるのは、エヴェリーナの一つ年上の兄。第一王子のマティアスだ。まだ幼いながらも聡明な顔立ちの、心優しい少年である。


いつも来客の時は、マリッカや侍女に代わり、エヴェリーナの面倒をよく見てくれている。マリッカはそれが嬉しく、誇らしい気持ちでいっぱいになるのだ。何があっても、この二人はきっとうまくやっていけそうだ、と。


「マティアス。いらっしゃい」


マリッカが手招きすると、少し笑ってからマティアスは歩み寄って来る。


「新しい王妃様は、どんな方だったの?本当に金色の髪をしているの?」


座った途端にそう問いかけられ、マリッカは苦笑した。それが聞きたくて、うずうずしていたに違いない。六歳にしてすでに利発そうと言われるマティアスも、まだまだ子供で、好奇心旺盛だ。


母親と違う王妃が来たという意味を、きっとまだよく分かっていない。それでもマリッカは優し気に微笑んで、口を開いた。


「そうね。くすんだ金色、というのかしら。綺麗な髪だったわ。優しそうな目をしていて、強そうだったわね」


マリッカの言葉に、マティアスは不思議そうに首を傾げると、エヴェリーナも真似をするように首を傾げた。その様子はとても可愛らしく、控えていた侍女からも笑みが零れる。この二人の存在は、この宮の癒しである。


「強そう?優しそうなのに?」


本当に不思議そうなマティアスに、マリッカは微笑みを浮かべる。


「儚そうに見えるけれど、私たちにもおどおどしないで、きちんと自分の言葉で話していたから。まだ不安はあるでしょうけど、ちゃんと芯がある方だと思ったわ。あの方なら、きっと大丈夫でしょう」


だが、認めるかどうかと言えば、複雑だった。王妃になる為に育てられ、ここまで来たマリッカには。それは自分の意思では無かったけれど、今はファビアーノを愛している。二人の子を生んだという実績もある。


けれど、国王は初めて自分で選んだ者を王妃にした。マリッカはそれを知っている。喜ばしいと思う一方、やはり寂しいものだ。いつか訪れる別れの時に笑っていられるか、少しだけ自信が無くなった。


「……さて、二人に本でも読みましょう。好きなのを選んでらっしゃい」


その複雑な心境を誤魔化すように、明るくマリッカは言う。


子供達二人が歓声をあげて、我先にと駆けていく。その様子を微笑みながら、しかしどこか寂しげに、マリッカは見つめていた。


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