三人の王妃
最初に口を開いたのは、奥に座る女性だった。口元に笑みを浮かべているが、その瞳は獲物を狙う猛獣のような目だった。
「よく来てくださいましたね、第三王妃様。私は第一王妃マリッカ。そしてこちらが第二王妃オネルヴァですよ」
「初めまして第三王妃様。オネルヴァですわ。どうぞよろしく」
二人とも、やたらと第三王妃という言葉を強調して言ったのは、牽制なのだろうか。三番目に来た王妃には、それほどの価値は無い、と言いたいのかもしれない。
実際、これまでの歴史上、第三王妃が王の母であったという話は無い。第三王妃はついでの、ただの息抜き程度の存在だと思わせたいのだろう。親切な事だ、とアイリは微笑みを浮かべながら思った。
とはいえ、ここで弱腰になる必要はない。相手が年上であろうとも、王妃という立場は同じなのだから。侯爵令嬢として育てられた以上、それくらいの矜持ならばアイリにもある。
礼は少し膝を折る程度に。それだけで、二人におもねる気はないということを示した。
「初めまして。第一王妃様、そして第二王妃様。アイリと申します。本日はお招きいただき……」
「そんな挨拶は無しにして、こちらへどうぞ。私たち、あなたと話すのをずっと待っていたのですよ。ねえ、オネルヴァ?」
「ええ。さあこちらへ」
言葉を遮られたアイリは、仕方なく誘われるまま空いていた椅子に座る。ちょうどマリッカの正面なのは、きっと故意なのだろう。
侍女が素早くアイリのお茶の用意をしていく。その間中、マリッカとオネルヴァは笑っていたが、むしろ睨みつけてくれた方が、アイリには楽だった。ニコニコとした笑いが逆に居心地悪くて。
アイリが腰を下ろして一息ついたところで、マリッカが口を開く。その声は高すぎず低すぎず、意外にも耳に心地よい声をしていた。
「それにしても、珍しい髪色ですこと。我が国では茶色か黒が主でしょう。染髪なども最近は流行ってはいませんもの。そうは思わない、オネルヴァ?」
「ええ、本当に。光の加減で違って見えて。なんて美しい色かしら」
二人の口調には、明らかな蔑みの色があった。この話題を口にしたくて堪らなかったのだろうか、とアイリは内心で苦笑する。
王妃に選ばれた者が、他人の見た目をとやかく言うとは、嘆かわしい事だ。こっそりと視線を交わしたミーナも、呆れたような顔をしていた。その表情はすぐに戻ったが、同じ思いだと思うと、敵地に来たような面持だったアイリもホッとする。