真珠の宮へ
珊瑚の宮から外に出ると、暖かい日差しに出迎えられた。こんな日は馬に乗って遠駆けに行きたい、と真珠の宮へ向かいながら思う。
少し足の悪いミーナに合わせてゆっくりと、緩やかな坂道を上がっていく。大きく息を吸って緑の香りを取り込むと、それだけで気分が高揚するような気持ちになるのは、きっとアイリだけでは無いはず。
小高い丘の上に立つ真珠の宮へは、珊瑚の宮から歩いて五分はかかるだろうか。アイリは少し歩いた所で立ち止まり、来た道を振り返った。
珊瑚のような薄い桃色をした珊瑚の宮の外観が、そこからはよく見える。中庭を囲むように建つ、三階建ての四角い建物。その向かい側に離れて建つ瑠璃の宮も形は同じであるが、青い色が見えた。
それぞれに王妃とその侍女たちが住んでいて、自分もその一人になったのだと思うと、改めて少し不思議な気持ちになる。願っていなかった自分が来るというのもまた、運命の悪戯というものか。
後宮を囲む塀の向こうには庁舎の建物が見え、侯爵であり財務を担当するアイリの父も、今頃はそこで働いているのだろう。視線を戻して目に入ったのは瑪瑙の宮。ファビアーノはもちろん、エヴァルドもそこで生活をしている。
結婚したら海辺に家を建てよう、と話していた事をふと思い出し、少し乾いた笑みを漏らす。あの日々はもう戻らないと、諦めなければならないのに。
そんな自分を心配そうにミーナが見ていることに気が付くと慌てて首を振り、笑顔を浮かべる。
再び歩いて、辿り着いた真珠の宮は純白の建物だ。外壁が眩しくて、思わず目を細めてしまう。瑪瑙の宮からは最も遠いが、第一王妃が住まうに相応しい美しさであった。
正面でミーナが名を告げると、中庭に突き出るように作られたサンルームに案内される。ガラス張りのサンルームからは中庭の様子が見え、美しく整えられた庭を眺めることができる。黄色や橙色の花が多く、明るいイメージだ。
そしてそこにはすでに二人の女性が籐の椅子に優雅に腰かけ、その後ろに二人ずつ侍女が控えている。
いつからいたのか、それぞれの脇に置かれた小さなテーブルにはティーセットが置かれ、スコーンやケーキ、クッキーなどがすでに置かれてある。アイリが入ってくると、二人はぴたりと会話をやめ、値踏みするような視線を投げかけた。
入って真正面に座るのが、豊かな黒髪を持ち、淡い黄色のドレスを着た、少し気の強そうな女性。その右斜め前に座るのは、濃い栗色の髪を持ち、藤色のドレスを着た、几帳面そうな女性だった。