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名前を呼ばれる幸福
「ファビアーノ様」
柔らかい声で呼ばれて、ファビアーノは笑みを浮かべる。
満足そうなその反応にアイリが笑うと、そっと抱き寄せた。アイリは微笑み、背に腕を回して身を委ねる。
「アイリ」
耳元で囁かれて、くすぐったそうにアイリが身を捩る。それでも、ファビアーノは離さなかった。
今までの空白を埋めるように、もう離さないというように、抱き締めている。そしてアイリはその腕の中で、最も聞きたかった言葉を聞いた。
「俺の妻はお前だけだ。子が生まれたら、一緒に帰ろう」
「はい……」
返事をしながら、アイリは目を閉じる。その瞳から、涙が一つ零れ落ちた。
「ファビアーノ様。帰ったら、一緒に散歩をしましょう」
「ああ」
「また湖にも行きましょう」
「ああ」
「私はあなたを愛しています」
「ああ。俺もだ」
さりげなく言われ、ファビアーノは笑って言った。
優しい腕に抱かれ、アイリは幸福を噛みしめていた。この先、またどんな困難があっても、この人となら乗り越えられる。
この時、二人はようやく夫婦になれたのだ。