招待状
疲れているから、と朝の支度が終わると他の侍女たちを下がらせ、アイリはミーナと二人だけで過ごしていた。居間として使っているその部屋には、バルコニーへ続く大きな窓があり、爽やかな風がレースのカーテンを揺らしている。
幼いころから外で過ごすことが好きだったアイリは、そろそろじっと部屋にいるのも飽きてきて、王宮の庭園は自由に散策できるから、行ってみようかしら、とミーナと話していたのだが、その平穏は一通の手紙によって妨げられた。
申し訳なさそうに部屋に入ってきた侍女は、第一王妃様の侍女がいらっしゃってこれを、とこれまた申し訳なさそうに口にしながら、手紙をアイリに渡す。あなたが悪いわけではないでしょうに、と言いながら手紙を受け取って開き、ざっと目を通したアイリは、思わず苦笑してしまった。
いったい何が書かれていたのか、と首を傾げるミーナに、アイリはゆっくりとその手紙を読み上げてみせる。
『親愛なる第三王妃様へ。昨晩の疲れが抜けておられないかもしれませんが、ぜひとも一緒にお茶をいたしたく。我が真珠の宮へどうぞお越しください。――マリッカ・アハティアラ』
アイリが読み終わると、早速ですか、とミーナはため息を吐く。こんな時くらい静かにさせてほしい、とその顔には書かれていた。けれども、アイリの方は少し楽しそうである。この誘いが良いものであるはずもないが。
無視して王宮の庭を散策するわけにもいかないし、早めに王妃との対面を終わらせておこう、と考えたのだ。どのみち、通らなければならない道だ。本当なら、アイリのほうから手紙を出して訪問する予定だったのだが、先方は待ちきれないらしい。
支度をお願い、と侍女を呼ぶアイリに、行かれるのですか、とミーナが不安そうに問いかけると、当然でしょう、と微笑んで返事を返す。
「断ってごらんなさいよ。どんな噂をされるか」
「それはそうですが。しかし、第一王妃様自らが招くには、どのような事が……」
「あら。マリッカ様だけじゃないわ。さっきは言わなかったけれど、オネルヴァ様もいらっしゃるそうよ」
「それはまた。いっぺんに二人も相手にせよとは。意地が悪いにもほどが」
「そんな事を言っては駄目よ。そもそも、二人がどうして一緒なのかしら。もしかしたら、それほど悪い方では無いのかもしれないわよ」
それが希望的観測に過ぎない事は、二人も分かっている。
ファビアーノが国王となり、マリッカが王妃となって五年、オネルヴァが王妃となってからは、三年経っている。マリッカもオネルヴァもファビアーノより年上で、アイリとは十歳ほどの差がある。
十八歳の若い娘が新たな王妃となれば、気に入らない、と思うのではないだろうか。
部屋着のゆったりとしたワンピースから、訪問用の青いシンプルなドレスに着替えるアイリを手伝いながら、ミーナは毅然とした顔で告げる。大事なお嬢様を、一人で行かせるわけにはいかないのだと。
「私もお供いたします」
「ありがとう。心強いわ」
楽しそうに笑って、支度を終えたアイリは部屋を出る。