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存在代理人


「やあ」

「へっ!?誰だ?」


少年『有田真司』は一面黒の空間の中で姿無き声の主を探す。


「僕はジョン・ドゥ」

「な、何その名前」

「名前など無いよ、ただ『名無しの権兵衛』よりは格好は付くだろ?」

「確かに、ジョンっていったら強い男の名前だからな」

「メイトリックスにマクレーンに救世主ジョン・コナー、ビッグボスの本名もだね」

「はは、よく分かってんじゃん」


姿なき青年との会話を楽しみ図らずも彼と打ち解けた真司、我に返って彼に大事な事を聞いた。


「それで、あんたは何者?幽霊とか、イマジナリーフレンドみたいな?もしかして俺の別人格?」

「何だと思ってくれてもいいよ」

「説明になってない」

「説明できない存在だからね」

「訳わかんねえ」


ジョンは少し考えたかのような間の後、語り出した。


「一つ言えるのは、僕の誕生日が四月一日という事だよ」

「それが何だって言うんだ」

「僕はエイプリルフールに生まれた、エイプリルフールは嘘をつく日だ……よって、僕の誕生は嘘になったんだ」

「生まれた事が無かった事になったって事?意味わかんねえよ」

「一体何が起きたらそんな事になるのか、僕にも分からないけどね」

「それなら、なんで俺と喋れてるんだ」

「君の夢の中に現れ、君とだけ喋った存在は、果たして存在していると言えるのかな?」

「それもそうだな……」

 

良くて、夢の中の空想の存在。


「もう一つ、敢えて僕が姿を現した……というか、現れる事が出来たのは、君自身の心の問題だ」

「ま、まあ、確かにテスト前で憂鬱だけど……まさか、俺の事攫いに来たとか?」

「ホラーに出てくるような怪奇の存在みたいに言わないでもらいたいな……ただ少し、取引をしたいのさ」

「取り引き?」

「君はちょっと居なくなりたいと思っている、僕は少しの間だけでも実体を持った存在を味わいたいと思っている……それなら、お互いに欲するものを貸し与え合えばいいんだ」


そんな言葉に少々不安を感じつつも、寝る直前まで現実逃避に走っていた真司はこれを「悪くない相談」と感じた。


「でも、それってどうやるんだ?」

「明日、6月27日だけ僕は君の『存在を間借り』し、その間本来の君は『居ない事』になる」

「居ない事って?」

「有田真司という人間は6月27日だけ『いない』事になり、その日の穴を僕が補う、いない事になっている間、君は僕と同じように『自由』となる」

「自由、か……」


状況が状況だった真司は。


「分かった、やろう」

「よし、契約成立だ」




次の朝、真司はいつものベッドの上で目覚めた。


なんだ夢か、と昨晩の会話を片付けようとした時、不可解な事に気づく。


一つは、自身に覆いかぶさっているはずの掛け布団の感覚が無い事。


そしてもう一つは、自分のいるはずのベッドに見知らぬ少女が全裸で眠っている事。


「だだだだだ、誰ェ!」


昨日部屋に誰かを招いた覚えは無い、ましてここまでの関係に至るような相手は自分には居なかった筈。


真司が混乱していると、謎の少女が続けて起床した、それと同時に今度は彼女を覆っていた掛け布団が捲れ、何もない胸が曝け出された。


「ああ、おはよう真司君」

「お、お前は一体!?」

「ジョンだよ、今は『有田真子』だけどね」

「ええっ、てことはマジで入れ替わりができてんのか……って言うかあんたは少なくとも声は男じゃなかったか!?」

「『居ない』奴である以上そんな設定に意味は無いんだ、前の契約では文武両道でイケメンのナイスミドルになって見せた事もあるし」

「でもよりによってそれって……」

「強いて言うなら僕の姿は『なりたい』か『なってほしい』奴になるんだ、思春期の男子なら順当な結果だと思うね」


掛け布団を取り、ジョン、改め真子はその肉体を惜しげもなく曝け出した。


「どうした、合法的に女の裸を見る、なんなら触っちゃうチャンスだよ?」

「ええっ、いや、そんな……」


あまりの事態に同様した真司、だが彼がほんの少し魔が差してか、真子の乳房に触ろうとした時。


自分の手はそれに触れる事なく、そのまま彼女の身体を透過した。


一時の性欲よりも違和感が優った真司は、真子の体から手を引っ込めると、それはすんなりと戻り、今度は顔に触ろうとすると、あっさりとすり抜ける。


「『居なくなっている』間は、君が『存在するもの』に触れようとすると、全てこんな風にすり抜けていく」

「存在しないって、こう言う事なのか?」

「同時に、君がリアルの人間に話しかけても、僕以外が君を認知する事は無い、『存在しない』訳だからね」


真子はベッドを出てタンスに向かう。


開けられたタンスには少なくとも昨晩までは存在する筈の無かったパンツやブラジャーで占められ、真司の着ていた服は確認できない。


もっと言うなら昨日までクローゼットにあった男子用の学生服は、女子用のものにすり替わっていた。


全て昨日今日すり替えたという様子ではない、そこそこ使用感があり、まさに『真子』が前からそこに居たようだった。


手際良く学生服を着込んだ真子は、改めてベッドに座り込む。


「ああ、『居ないこと』の楽しみ方も教えなくては今の状況を楽しむ事は出来ないよね」

「へぇ、例えば」

「自分は飛べる、って考えてみたら?」


真子に言われた通りそんなことを考えてみた時、真司の体は途端に宙に浮き始めた。


「おおっ、すげえ!マジに浮いてる!」

「どれぐらい速く飛べるか、どんな風に飛べるか、についても考えてみるといい」


真子の言葉に従い、真司が思い浮かべたのは『マン・オブ・スティール』あんな風に飛べるたら、と考えた瞬間。


真司は自分でも気づかないうちに、超スピードで窓の外に飛び出していた。


自分でも制御の出来ないスピードで飛んで行く自分自身、気がつけば空を飛んでいたカラス達を越え、雲に接近、そしてそれさえもすり抜け、さらには一瞬だけだが飛んでいる旅客機の中を通り過ぎた。


怖くなった真司が一心不乱に『部屋に戻りたい』と思った瞬間、目の前を光が覆い包み、気がつけば真子の待つ自室に戻っていた。


「あっ、戻った」

「テレポーテーションも出来るんだ、他人に干渉しないのであれば、なんでもありと言えるよ」

「幽霊みたいなモンかと思ったけど、なんかそれどころじゃ無いな」

「存在しない物を説明する事は出来ない、即ちそれは『どうとでも語ることが出来る』から、だと思うんだ」

「つまり、架空のキャラクターみたいなモンだから設定盛り放題だって事か?」

「そういう事だね」


そして、真子は朝食を取りに下の階へ、真司は窓を擦り抜けてどこかへと飛んでいく。




真司が浮遊して行った先は映画館。


真子が現在朝のホームルームを迎えている傍ら、映画『KING OF DARK』を見ている。


地球人を影から支配するレプティリアンを題材にしたSF映画、今物語は佳境に差し掛かるといった所だ。


『何故抵抗する』

『我らに任せておけば、永遠の繁栄が約束されるのだぞ』


『人任せの栄光に何の意味があんだよ!』


そう吐き捨てた主人公は容赦なく光線銃でレプティリアンの王を撃ち抜いた。


「人任せの栄光、か」


それまで映画に没入していた真司が呟く。




「やあ、楽しかったかい?」

「ああ、満足満足、そっちは?」

「まあ簡単だったね、少なくとも90点代は間違いない」

「へえ、そりゃ心強い」


二人が合流したのは夜一時頃、夜間上映の映画まで見て再び窓から戻って来た真司を、ベッドに入っていた真子が迎える。


「なあ、俺は今日だけ居ない事になってるって訳だが、明日になったらどうなるんだ」

「明日が来れば分かるよ」

「えっ、それはつまり……」


聞こうとした直後、真子が目を閉じると同時に真司の意識もブラックアウトしていった。




「今日も6月27日……」


先日ジョンがめくった筈のカレンダーはまたしても「次の朝」だった。

 

「どういう事だ?お前タイムリープまで出来たのか?」

「生憎、僕は時間に対して自由な干渉ができたりはしないんだよ」

「じゃあこれはなんなんだよ」

「恐らくだがね、僕が存在した1日は、『なかったこと』になるんだ」

「なかったこと?」

「本来なら存在しない者の行動が、果たして現実にまで影響を及ぼしうるのか?という事だ」

「でもあんたは今、俺の存在を間借り出来てるんじゃないのか?」

「あくまで間借りした存在の未来まで決める権利は僕には無いのだろうね」

「……良くわかんねえけど、まあ分かった気がする……」

「残念だが、君ができないテストを僕が代わりにやってあげる事は出来ない

「ははは、やっぱ楽は出来ないか」


納得した真司は、少しの間考えると。


「……俺に今日一日だけ『居なくなっている』時間をくれ」

「承知した」


ジョンが朝食を取りに居間に向かう傍ら、真司は机に向かった。




「次に目覚めた時、有田真司の6月27日が来る、それでいいね?」

「ああ、満足だ……なんかありがとな、あんたのお陰でいろいろ考える時間が出来た」

「僕も誰かと話が出来て嬉しかったよ」


両者円満に契約が解消される。


もとより姿の無いジョン・ドゥ、しかし確かに「ここ」から去って行ったのを真司は感じ、確信した。




翌朝、真司は起床した。


上には掛け布団、背中にはベッドの感触を感じ、何よりベッドのどこを見ても『真子』らしき人物は存在しない。


ベッドを出てタンスを開ければ、いままであった女物の下着はどこにも無く、自分のTシャツが収まっている。


自分の『存在』は正式に返却された、そう確信した真司は誓う。




自分の未来は自分の手で築き上げねば、と。






「あーちくしょー……さっぱり分かんねぇ……」


肝心のテストを前に、真司は頭を抱えていた。


もう一日の猶予を貰ってテスト勉強に励んだは良かったが、『一夜漬け』が祟ってか結局このような状況である。


真司は悔いる、もう二、三日時間を貰っておけば、と。

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