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ハッピーライフ!  作者: いっちー
3/3

たった一人の存在。


キーンコーンカーンコーン。


チャイムが鳴り、唯一長く休憩することが出来る昼休みが訪れた。

いつもなら、コンビニで買ってきた弁当を黙々と食べるのだけども……。


「ねぇ、一緒に食べない?」


「え……。」


僕は、女の子の言葉に、目頭が熱くなるのを感じる。


ずっと、一人でお弁当を食べる毎日。

誰とも話さずに、話すことさえも出来なかった毎日。

クラスメイトから僕のことを、「ぼっち君」と陰口をたたかれる毎日。


本当に辛かった。


僕は、みんなを呪うように、必死にお弁当を食べていた。

イヤホンを耳に挟みながら……。


「ねぇ、涙がこぼれそうだよ。大丈夫?」

「大丈夫……。」


ワイシャツで涙を拭う。


「本当に、僕でいいの……? 僕、つまらないよ……。」


「はぁ、君ってねー……。」


肩を落とす女の子。やれやれと、首を横に振っていた。


「君は私の仲間に加わったんだよ。昼休みぐらい一緒にいたって、構わないでしょ。」


すると、にこっと、また眩しい笑みで、僕の目を見つめる。


「私はね、君と一緒にお弁当を食べたいの。つまらないなんて二の次だよ。まずは、私と君の関係を深くするの。だからね、親睦を深めるためにも、一緒に食べよう。」


女の子の優しい言葉に、またもやも涙を流してしまった。

もう、おさえられそうになかった。

温かい気持ちが、胸の中で広がっていて、この感情は初めてで、どうしたら、押し込めることが出来るのか、分からなかった。


「もー。本当に泣き虫なんだね。」


女の子はポケットから、ポケットティッシュを取り出して、はい、と渡してくれた。


「ありがとう……。」


「もう、本当に世話が焼ける人だね。」


僕、いつからこんなにも泣き虫になったのかな……。

きっと、何年も、人の温かみに触れることがなかったからだと思う……。


「今日から、私が君のことを守ってみせるからね。」


「うん……。うん……。」


女の子は、優しげな眼差しで、手を差し伸べる。

僕は、その手をつかもうと、手を差し伸べた。


そして、女の子は、ぎゅっと優しく包み込むように、僕の手をつかんだ。


「さて、一緒に、ご飯を食べよう。」


「うん……。」


女の子の手は、とても、温かかった。




「いただきます。」

「いただきますー。」


机をくっつけあったあと、向かい合うような形で、ぼくと女の子は、同時に手を合わせ、頂きますの挨拶をした。

ぼくは、メロンパンを手に取り、口に頬張る。


「あれ、君は、メロンパンが好きなんだね。」


こくこく。


小さく頷く。

女の子は、まだ弁当箱から手を伸ばそうとせずに、興味深そうに見つめてきた。

その純粋な目に、胸がドキっと跳ね上がる。


「君って毎日メロンパンを食べているよね。そんなにも美味しいの?」


メロンパンは、ぼくの大好物。

どうして、メロンパンが好きになったのか、あまり記憶にはないけど、きっと、誰かの影響で、好きになったんだと思う。そのことを女の子には伝えていないのに、女の子は、ぼくが毎日メロンパンを食べていることを知っていることに、つい、驚いてしまう。


ぼくは、自然にメロンパンを口から離して、呆然と女の子を見つめた。


「あれれ、その顔は、どうして、自分の好きなものを知っているのかって、顔に書いてあるよ。」


悪戯っぽく笑う女の子。

どうして、そんなにも簡単に見透かされるのかな……。


「私はね、毎日、昼休みに、君のことを見ていたからだよ。君って、毎日、メロンパンを食べてるから、絶対に好きなんだろうなぁ……と、当たり前の答えを出したわけなのですよ。」


得意げに胸をそらす女の子。

ぼくは、女の子が毎日、ぼくのことを見ていたという真実を知って、恥ずかしい思いでいっぱいだった。


ぼくのことを、ずっと、見ていたのかな……。

それだったら、消えてしまいたいほど恥ずかしいかも……。

きっと、汚い食べ方をしていたかもしれないから……。


「もしかして、君って、恥ずかしがりやさん?」

「きっと、そうかもしれないかも……。」


だって、ぼくは、君のことを、好きになってしまったんだから……。

恥ずかしく思うのは当たり前だと思う……。


「とっても可愛いね。君って。」

「か……。可愛い……?」

「うん。なんだか、女の子みたい。」


初めて女の子から「可愛い」という言葉。

みんなからは、理不尽な言葉ばかりを浴びてきたから、物凄く嬉しかった。

だけども、ちょっぴり、恥ずかしい……。


「そういう、もじもじしているところも、可愛らしいね。」

「うぅ……。」


ついつい、俯いてしまう。もう、顔全体が、蒸発でもするんではないかと思うほど熱い。


「もっと、ほめてあげようか?」


「ううん……。もう、だいじょうぶ……。」


これ以上褒められると、ぼく自体がおかしくなってしまうので、断ることに。

頭の中で「可愛い。」と「女の子らしい。」という言葉がぐるんぐるんと、メリーゴーランドみたいに回っていて、気が狂いそうになった。もう、恥ずかしくて、このまま逃げ去りたかった。


「じゃあ、私も食べようかな。」


女の子は、クススと笑ったあと、弁当箱の蓋をあける。

弁当箱の中身は、香ばしい匂いが漂う卵焼きと、湯気が立ち昇っている、ホカホカの白ご飯。その上には、鮭が盛り付けられていて、とても美味しそうだった。


女の子は、卵焼きを口の中に頬張る。

モグモグモグと、咀嚼している音が聞こえるように感じた。


「君も、卵焼きを食べてみる?」

「え……。でも……。そんなに美味しそうに食べている姿を見ちゃったら、申し訳ないですし……。」

「そんなに悲観的に考えちゃって。私は、君に食べてほしいの。」

「僕に……?」

「うんうん。君に食べてほしくて、つくったんだからね。せっかくつくったんだから、もったいないでしょ。」


わざとらしく口を尖らす女の子。

僕は、まだ女の子の気持ちが分からなくて、戸惑ってしまう。

どうして、僕のために、作ってくれたのかな……。

ただ、女の子の食べているところを見たいだけなのに……。


「食べないんなら、私一人で食べちゃうよ? それでも、いいのかな……?」


もう一つの卵焼きを箸でつかみ、魚をおびき出すみたいに、それを目の前に、ぶらぶらと小さく上下に振る女の子。


「分かった……。食べてみる……。」


もう降参とばかりに、幸せそうに頬を緩ませている女の子に見せるように、肩をすくませる。

ここは、食べるしかなさそうかな……。

好きな人から卵焼きを食べるなんて、胸が満たされる思いをすると思うけども、きっと、これ以上にない恥ずかしさが襲ってくると思う……。


「正直になったね。よかったよかった。」


安堵の息をはき、とても喜んでいるようだった。

僕は、その様子に、心の中で、安心感が広がっていく。


「それじゃあ、はい、あーん。」


突然、女の子は、箸でつかんだ卵焼きを、そのまま僕の口元へと近づけてきた。

僕は、その思いもよらない言動に、反射的に、顔をそらしてしまう。


「え……。あーんをするの……?」

「もちのろんだよ。そのために、ここまで粘ってみたんだからね。」

「そんなの……。聞いてないよ……。」

「お願い。してほしいなぁ……。だって、私、初めて、手作り料理を作ってきたんだから……。」


しょんぼりとした顔で指を絡ませている女の子。

今度は、わざとらしくない、自然な表情だった。

僕は、その嘘偽りのない表情に、こう言うしかなかった。


「分かった……。あーんする……。」


その声に、女の子は、大きく目を見開き、満面の笑みを浮かべた。

よかったぁ……。という、安堵の声を漏らしている女の子の姿が目に浮かぶ。


「本当に食べてくれるの……?! だって、私、料理、はじめてだし……。口に合わないかもしれないんだよ……? それでも、いいの……?」


さっきの勢いはどこへやら。女の子は、目をうるませ、指をもじもじとしていた。

意地悪っぽく僕のことをいじっていた女の子とは対照的で、とても可愛らしくて。

ずっと、その姿をさらけ出して欲しいとも思ってしまった。


「うん……。だって、君が、僕のために……。作ってきてくれたんだから……。味なんて関係ないと思う……。」


僕は、性欲とは違う、何か不思議な感情になった。

女の子を喜ばせたい。女の子の悲しい顔を見たくない。

その思いが強くなっていく。


きっと、僕は、女の子に夢中かもしれないと思った。


「ありがとね。」


女の子は、ぱっと笑みを弾けて、また、卵焼きを僕の口元へと、ゆっくりと近づけてきた。

次は、顔をそらせないようにしようと、僕は、小さく口を開ける。


「……。」

「……。」


女の子は、卵焼きを口の中へといれようと、前のめりになっていた。

顔と顔がぶつかりそうなほどの距離。

女の子の甘い息が、鼻先にあたり、卵焼きの香ばしい匂いがした。


「あーん。」


「あーん……。」


そして、女の子は、口の中に卵焼きを入れ、かたんと首をかたむける。

その顔には、緊張の色が見え、美味しい?と、弱々しい声色で、そう小さく呟いた。


「うん……。美味しい……。」

「え、本当に……?」

「うん。本当だよ。」

「よかったぁ……。」


女の子は、やったーというポーズで、安堵の息を漏らした。


本当に、女の子が作ってくれた卵焼きは、とても美味しかった。

ちょっぴり甘かったけど、その甘さも僕の舌を刺激して、旨みが口全体へと広がっているように感じた。


きっと、好きな女の子から、あーんをしてもらえたから、さらに美味しく感じたんだと思う……。

そう思うと、また、顔が真っ赤になってしまう……。


「食べてくれて、本当にありがとね。私、幸せだよ。」


今まで見せたことのない満面の笑顔。

僕は、その笑顔に、さらに女の子のことを好きになってしまった。


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