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ハッピーライフ!  作者: いっちー
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不思議な女の子。


ピピピピ。

ピピピピ。


目覚まし時計が大きくと鳴る。

僕は、枕の上に置いてある目覚まし時計を手に取り、ボタンを押す。

すると、目覚まし時計は、寂しそうに、チクチクと、針の音だけが微かに聞こえた。


「うぅ……。」


思いっきり背伸びをする。視界はぼやけていて、霧の中に彷徨っているみたいだった。

だけど、僕は、睡眠が浅いので、それも一瞬だけだった。

頭はさえ、霧が、ぱっと、切り開かれていった。


「昨日は夢だったのかな……?」


道路の真ん中で、ポツリと寂しそうに立っていた女の子。

世界の秘宝を知りたがっている女の子。

本当に、不思議だらけだった。

どうして、僕は、まともに女の子の言葉を信じたのかな。

ううん。心の中では信じてないのかもしれない。


世界の秘宝。

特別な神様。


人生の中で聞いたことのない言葉だった。


「気になるかも……。」


世界の秘宝を知りたいし、女の子のことも、もっと知りたい。

だけど、肝心な女の子がいない。

これは、致命的だと思う。


「夢じゃ……ないよね……?」


僕は、半信半疑になりながら、台所へと移動した。




今日の朝ごはんは、卵がけご飯。

一般の家庭では、朝食は、お母さんかお父さんが振舞ってくれると思うけど、僕は、その中には含まれていない。

なぜかというと、両親は、お仕事で忙しく、家に帰ってくることがほとんどないからだ。


最近、帰宅したのも、思い出せないほど、何年も両親の顔を見ていない。


温もり溢れている家族に会えないなんて、最初は寂しかった部分もあったけど、今では、一人きりの生活が当たり前のようになってきた。

今では、もう、慣れている。


「ごちそうさまでした。」


僕は、食器を洗ったあと、制服に着替えて学校へと向かった。




「ねぇ、ねぇ、昨日のあの番組みた?」

「あの番組って?」

「お笑い芸人がバンジージャンプをして、リアクションをしているところを、ビデオカメラに収めるという番組だよ。」

「あー。あれか。観たに決まってるじゃん。めちゃくちゃ面白いからな。視聴率もいいらしいぜ。」

「えー。そうなんだ。」

「もし俺がバンジージャンプをしたら、どんな顔をしてると思う?」

「オランウータンみたいに、顔が皺だらけになるんじゃないか。」

「ププ。」

「我ながら、オランウータンみたいな顔になるとか、ちょーうけるな。」

「だな。」

「「わはははははは!」」


「……。」


男子生徒の笑い声が、けたたましく聞こえた。

本当に、友達がいて羨ましい限り。

僕は、クラスメイトとは違い、ずっと一人ぼっち。

影が薄いし、クラスメイトとしゃべることもなければ、クラスメイトから話しかけられたことは一度もない。


自分でも分かっている。僕は、暗い人間なんだと……。

だけど、もし、性格が変えることが出来れば、僕は、きっと、みんなと同じように、当たり前な生活を、当たり前のように過ごせるのかもしれない。昨日の、女の子みたいに、僕は、この世界から、抗えることが出来るのかもしれない。


僕は、女の子を求めているのかも……しれない。


「ねぇ、昨日のこと、覚えてる?」


突然、透き通ったような、どこか聞き覚えのある声が聞こえた。

その声に、安心感みたいな感情が、わきおこる。

僕が求めていたものが、すぐそこにある。そう思えた。


僕は、その声に、どぎまぎしながらも、勇気を振り絞って、声の主を見上げることにした。


「……。」


目に映っていたものは、

昨日、出会った、不思議な女の子だった。


「やぁ。久しぶりだね。」


「あ……。あぁ……。」


僕は、感動のあまり、変な声を出してしまう。

それでも、女の子は、いつも通りに、笑みを絶やさない。


その姿に、昨日のことは夢ではなく、現実で起きたことなんだと実感し、なんだか、嬉しく思った。


「ちょっぴり、嬉しそうな顔をしているように見えるけど、どうしたの?」

「ううん……。なんでもない……。」


いえるはずがない……。

君のことを好きになってしまったと……。


「どうして、ここにいるの?」

「失礼だねぇ。私はね、君のクラスメイトなんだよ?」

「え、そうだったの……?」


僕は、クラスメイトの顔なんて見たことがないから、気づかないのが当たり前なのかな……。


「はぁ……。本当に、人の顔を見ないんだね……。」


大きく嘆息をする女の子。


「一応、伝えとくけど、ずっと君の隣の席だったんだよ。」

「そうだったんだ……。」


次は驚くことなく、自分の不甲斐なさにガクリと肩を落とす。

こんなにも可愛らしい、茨の道を突き進んできたであろう女の子のことを、知らなかったなんて、人生の半分ぐらいは損しているのかもしれない。


「君は、そういう性格を直したいだよね。人の顔が見れないことも。」

「うん……。なおしたいかな……。だって、ものすごく息苦しく感じるから……。」

「じゃあさ、私と一緒に、協力しない?」

「協力……?」

「そう。協力。昨日、私は言ったよね。私は君の仲間なんだと。そして、君の性格は、この世界の秘宝になんらかの関係性があると思うと。私は、君のことを知りたいんだ。君のことを、隅々まで、知りたいんだよ。私はね。」


この状況、どうしたらいいのかな……。

僕のことを「知りたい」という思いは、体が飛び跳ねるほど嬉しい。

だけど、女の子は、決して僕に対して好意を持っていない。

世界の秘宝を探すために、僕を誘っているのだから……。


「僕は、君の仲間になって、何をすればいいの……?」


まだ探りを入れたくて、僕は、そう質問を投げかける。


「そんなの簡単なことだよ。」


女の子は、指を口元に当てて、小さく笑った。


「この町の不可解な出来事を突き止める。それが、私の使命でもあり、君の使命でもあるんだ。」


女の子の言っていることが、まだあまり分からなくて、口が固まってしまった。

この町の不可解な出来事。それを突き止める。

その言葉だけでは、全容は掴めなかった。


「そうだよね。まだ何を言っているのか分からないよね。ただね。これだけは言えるよ。この町に起きた不可思議な出来事も、世界の秘宝に結びついているのかもしれないからだよ。私は、直感だけは他の人より桁はずれてるからね。」


女の子は、自信ありげに頷く。


「ということは、僕は、君の仲間になっても、いいのかな……?」

「いいに決まってるでしょ。だって、私、君を支えたいからね。」

「本当に……?」

「本当だよ。神様が嘘をつくはずないじゃん。特別な神様だけどね。」


自嘲気味に笑う女の子。

その姿に、その優しさに包まれた言葉に、涙が溢れ出ていた。

もう、涙がとまらなかった。


「うん……。ありがと……。」

「うわぁ……! どうしちゃったの……?」

「なんだか、うれしくて……。優しくて……。ごめん……。突然、泣いちゃって……。」

「もう、しょうがないなぁ……。はい、ティッシュ。」

「ありがと……。」


僕は、女の子からティッシュをもらって、涙をふく。

何枚も何枚も使っても、涙は溢れていく一方だった。


「僕、ずっと、君みたいな人を探し求めていたのかもしれない……。ずっと……。」


僕は、毎日、無意味な時間を過ごしてきた。

友達も作らず、ずっと、地面だけを見続けてきた。

青春という言葉を、この手で壊したくて、その言葉を耳にするだけで、嫉妬がわき上がってきて……。

自分でも、青春という言葉から逃げていると思いながらも、自分勝手な考え方で、青春という言葉から避け続けてきた……。


だけど、そんな怠惰な生活を送っていたけど、そんな惨めな姿をしていたけど、この女の子と共に過ごせば、いつか、変えることが出来るのかもしれない……。


今日から、この女の子と共に青春を謳歌すれば、いつか、報われるのかもしれない……。


世界の秘宝も、いつかは、解き明かすことが出来るのかもしれない……。


だから……。だから……。


「僕は、生まれ変わりたい……。」


「何があっても、どんな困難があったとしても……。絶対に生まれ変わりたい……!」


「だから……。だから……。君のそばに、ずっといる……。」


僕は、この世界を知りたい……。

もう、こんな生活から抜け出したい……。

灰色な景色を、カラフルな景色に変えたい……。

この手で、幸せを掴み取りたい……。


友達と一緒に笑いあったりしてみたい……!


「君は、泣き虫なんだね。」

「泣き虫……なのかな……。」


きっと、今まで溜まってきた涙が、一気に放出されたんだと思う……。


「君の気持ち、分かるよ。」

「え……。」

「君は、ずっと、数え切れないぐらいの悩みを抱えてきたんだよね。私には分からないけど、絶対に、辛かったと思う。」


その言葉に、また、胸の辺りが温かくなって、涙がポタポタと、頬から落ちていく。


「そう信じ込ませないためにも、私が君のそばにずっといるよ。だから君は、私を助けてほしいんだ。」

「わ……。わかった……。」

「うんうん。」


女の子は優しい笑みを浮かべて、手を差し伸べてきた。


「世界の秘宝を解き明かすため、そして、君がいつか生まれ変わることを祈りつつ……。これからも、よろしくね。」

「うん……。よろしくお願いします……。」


その日、時間が止まっていた僕らの世界は、何かに歯車をあわせたかのように、突然、時間が動き出したような気がした。


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