ーー伏竜鳳雛の目覚めーーその①
これまでのあらすじ
高校二年生の男、物部太一は原因不明の異世界転移をしてしまった。
転移先の森で狼に襲われ、絶対絶滅に陥ってしまうが。その近くにいたある男が助けてくれた。
その男の家に行き事情を説明すると、男は自身の使ってる内丹術を教え、元の世界に帰るための旅をすればいいと言い始めた。
それに同意した太一は、修行をつけてもらうことになり。二年の歳月をかけて師匠の氣を超えるぐらいの実力をつけた。
果たして、旅を始めた太一は元の世界に帰れるのか!
草木が芽吹き、鳥達が歓喜の声を上げて鳴く。
正に春真っ盛りの季節で、商人達が国を行き来して旅をしながら商売をしている平和な時期である。 だが、当然旅とは危険が伴う事を理解しなければならない。
アルヘーンの近くにある道である初老の商人がその危険の渦中にいた。
「おい、爺さんよあんたのその荷物オレにくれない?あんたよりも有効活用する出来ると思うぜ」
「それは困るんじゃ…この荷物はワシの全財産が詰まっている。ワシが死ねば婆さんが飢えて死んでしまう」
「ヘヘッそうかい、オレは困らないから別にいいけどなァ!」
「ぐわぁ!」
「アニキ!こりゃ良い質の金や香辛料だ!これぐらいあればお頭が喜びますぜ!」
「おっしゃ!これでオレも隊長に昇進だ!」
「ぐぅぅ……すまない婆さん……」
数人の盗賊に襲われていた老人が荷物を奪い取られ、地面に這いつくばっていると。
そこに1人の男が通りかかり、盗賊に話しかけた。
「オイオイ。大の男が老人に寄ってたかって盗みなんて、流石に情け無いとは思わないのか」
「誰だテメェ!口出しするなら痛い目見るぜ!」
商人から見た男の風貌は、180センチ位の身長で見慣れない服を着ており、腰には剣を携えており若い旅人の様だった。端正な顔立ちはまだ幼さを残した感じだったが、目つきが鋭く。いくつもの修羅場を乗り越えて来た事の証明となっていた。
男は盗賊達に向かって話を続けた。
「わかった、わかったよ。お前さん達の事を良く知らないが。取り敢えず返してやったらどうだ?爺さんが困ってるだろう?」
「んなもん知るか!オレは別にジジイ事なんて知らねえよ、オレ達はここでも名の知れたカラミティー盗賊団だ!お前を殺してもいいんだぜ!」
数人の盗賊がニヤニヤと笑っていると、男は澄ました顔で。
「そうかい。名の知れた盗賊団がそんな爺さんを襲って金巻き上げるなんて、よっぽど狡いマネをして名を挙げてきたんだろうな。俺だったら死んでも入らないぜ」
「クソ餓鬼がぁ!」
「ぶっ殺してやる!」
「まずテメエが死ねやァ!」
嫌味たっぷりな表情になりながら言うと、盗賊達が憤怒の表情になって飛びかかってきた。
「ハァ……しょうがないな、死んでも文句は言うなよ」
男は剣を抜き放ち腹に力を加えると、辺りに衝撃が伝わって盗賊達を吹き飛ばした。
「グワァ!なんだこいつ!」
「何でアイツが腹に力を加えただけで、こっちが吹き飛ばされるんだ!!」
吹き飛ばされた盗賊が体勢を立て直そうとまごついていると、一瞬にしてリーダーらしき盗賊の男の隣に移動した男が、ニヤついた表情で。
「そりぁ、俺の使う術だからさ。お前らくらいの雑魚なら拳も要らずに吹き飛ばせる、どうするか?此処で引いた方が身の為だぞ」
盗賊のリーダーらしき人間に剣を向けながら言うと、盗賊達は捨て台詞を吐き捨てながら走り去って行った。
「爺さん大丈夫か?手を貸してやるよ」
男は商人に手を差し伸ばして、起き上がらせた。
「君の名前は何かい?良かったら聞かせてくれ」
起き上がった商人が、男に対して問うと、男は恥ずかしそうに。
「俺の名前は物部太一、いきなりですまないが腹が減って死にそうなんだ。パンか干し肉でも何でも良いから分けてくれないか?」
太一は勢い良く鳴っている腹を抱えながら、商人に申し訳なさそうに言った。
「おお〜、此処がアルヘーンか。やっぱり師匠の話通りに大きいな!」
両手一杯にパンを抱えながら、口に干し肉を突っ込んでいる太一は、アルヘーン王国の王都アルヘーンに辿り着いた。
アルヘーン王国は、三大国と言われる国の中では一番の軍事力を誇り。国が魔導師を雇用して特権を与える、特級魔導師と言うシステムのある国だという。この世界の軍隊はおおよそナポレオン戦争のレベルの技術力を誇り、散兵による戦術を取れるのはこの国だけと言われている。
国の象徴と言われている巨大な門をくぐると、そこでは町人達と商人達が活気ついて商売をしていた。
沢山の人が織りなす喧騒を聞いて、元の世界での生活に望郷の念を思い起こされたが。その思いをギュッと堪えて、目的の役所に行くことにした。
お上りさんらしく、周りを見ながら歩いていると。前方から走ってきた女の子とぶつかってしまった。
「おおっと!」
「きゃっ!」
「すみません、私の不注意で」
「いえいえそんな、俺の不注意ですよ」
ドシーンという音が似合うような転け方をした女の子は、申し訳無さそうに謝ってきたが。少し足を捻り、歩き方がぎこちなかったので、太一が声を掛けて。
「お嬢さん、良かったら俺が怪我を治しますよ」
「大丈夫ですよ、そこまで酷い怪我ではーーあれ?足の痛みが治ってる?」
太一は氣を使って怪我を治したので、驚いた女の子は、御礼に役所まで連れて行ってくれる事になった。
案内の途中に女の子が話しかけてきた。
「何故役所に用があるのですか?」
「俺の師匠が渡してきた手紙を出す事が必要だからかな、それが終わったら少し滞在して、あとは旅に出るだけかな?」
「そうですか……私は旅に出た事なんて無いので羨ましいですね」
「そうですか、申し訳無いんですがお名前をお聞かせ願えませんか?」
「私の名前はシャーロットです、あなたの名前は何ですか?」
「俺の名前は物部太一です、太一と呼んでいただければ幸いですね」
「そうですかタイチさん。あっ!あの大きな建物が役所ですよ!」
「あぁ、そうですか。ご案内ありがとうございます」
「別にどうって事無いですよ。これではまた会う時まで、さようなら」
「さようなら」
太一はシャーロットと別れたが、その可愛さに若干惚れていた。
(あのブロンドのロングヘアに、エメラルドの様な目に見つめられて、更にスタイルの良い身体とあの可愛い性格の女の子とか見た事無かったよ…。この世界に来て始めた良かったと思えたな…)
頭の中を煩悩塗れにしながら、太一は役所の門をくぐって行った。
特級魔導師の任命のされ方には、2つの方法がある。
一つが実力による任命と、2つ目は推薦状による任命だ。
今回師匠が渡して来た手紙は、後者の条件の任命を受けるためのものであり、おおよそは3級か、良くて2級ぐらいの階級と予想していたのだが。
「こっ……これは!一級魔導師の推薦状です!ささっ、こちらにおいでください太一様。これより任命式が行われるので、局長の所へと向かってください!!」
異常な程に取り乱している女性の役人に、押し込まれる様に奥へと連れて行かれた。
局長室では、意外にも見た目が温和な好好爺が座っていたが。氣を使って探ってみると、その隙の無さが手に取るようにわかった。
(オイオイ。このおっさんどこから攻めても反撃出来るくらい、魔力を張り巡らせいるよ…)
局長の机の目の前まで行くと、局長が口を開いて話し始めた。
「おぉ〜〜!ようこそ私の部屋へ、おめでとう!君はこれで一級魔導師になる事になった。君には特務中佐の資格とその分の給料、不逮捕権の習得などの特権が与えられる。どうだろう?嬉しく無いのかね?)
太一はあまりの出来事を現実と理解出来てなかったが。すぐさま理解すると、一つの疑問について話した。
「何故?私の様な旅人にその様な資格をくださるのですか?幾ら推薦状があろうとも、信用性がありません」
困惑した表情で局長に話しかけると、局長が笑いながら返答して。
「そりぁ…ね、その推薦状は君の師匠が書いた物だろう?あの頑固者がわざわざ推薦状をしたためるぐらいの弟子なら測る必要なんて無い。あと部屋に入ってきたときにも、あそこまで隙の無い警戒を出来るならその資格はあるだろう」
「俺の師匠を知ってるんですか!」
太一はその事に驚き、大声を出してしまったが。局長は話を続けて。
「アイツは内丹術を教える若者を探そうとせずに、山に篭ってしまった。何にせよ、内丹術は使い方を誤れば世界をも滅ぼす。と言って周りの言う事も聞かずに、山に300年以上篭っていた。あの頑固者がそれを解いてわざわざ術を手ほどきした奴が、弱い訳が無い!その証拠は今取れたから良かったがね。太一君、その力は魔法と似ていても、その危険性は計り知れない。どうか世界を滅ぼす様な事がない様に正しい事に使ってくれ」
「はぁ………」
局長は自身の思いを話し終わると、証書と杖と勲章を渡して来た。
「その杖か勲章を見せれば、身分の証明が出来る。これからの君が良き旅路を辿れる事を祈るよ、さようなら」
「ありがとうございます、この力を邪な事に使わない様に頑張って参ります」
「あぁ、頑張るんじゃぞ」
太一が局長室を出た後に一番初めに思い浮かんだのは、驚きの感情だった。
(さらっと300年前とか言ってたけど、師匠そんなに歳食ってたのかよ!人は見かけによらぬものって言うけどその限度は無いのか!)
通り過ぎる度に、役人達が敬礼をするのを一瞥しながら外に出ると。丁度昼時にだったので、ご飯を食べに行こうとすると。
「大変だ!第2王女様が拐われたぞ!」
「カラミティー盗賊団が拐ったらしいぞ!」
「マジか!アイツら無法者の集団からどう救い出すのかよ…」
町人達が次々と声を上げて嘆いていたが、太一は第2王女の似顔絵を見て思わず面を食らった表情になった。
(オイオイ……俺の記憶が正しければ、さっきここまで案内してくれたシャーロットじゃないか…!)
ーーその似顔絵は先程案内してくれたシャーロットに、恐ろしい程そっくりな絵であった。
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