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無敵ヒロインの学園始末記  作者: 桂木 玲
第一章  プロローグ ~ようこそ乙女ゲームの世界へ~
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「夏希さん、起きてるかい?」

「あ、秋本さん。来て下さってありがとうございます」


 翌日。昨日の言葉通りに、秋本会長は大きなケーキの箱を抱えて再び私の病室にやってきた。たまたま部屋に居合わせた先日の看護師さんが、彼のイケメンぶりに目を瞠っている。彼女はあの後、貴史さんを不用意に招き入れたことをずっと後悔していたから、昨夜、私がその父親の話をした時にはかなりご機嫌斜めだったが、本人を一目見たとたん、そんな気持ちはどっかへ吹っ飛んでしまったらしい。彼のためにいそいそと椅子を用意し、頼む前から飲み物の準備まで始めている。さすがナイスミドル。お若い看護師さんの乙女心を一発で鷲掴みだ。


 お土産のケーキはとても美味しかった。手の空いた看護師さんたちも呼び寄せ、病室で時ならぬティーパーティー。もはや私の『面会謝絶』は、完全に有名無実化している。

 私はよく知らなかったが、看護師さんたちの話によると、彼が持ってきてくれたケーキは町一番の高級店で、今話題の商品らしい。会長のような大金持ちには何てことないものなんだろうけど、女の子にとっては堪らない魅惑の食べ物だ。看護師さんといえどもやっぱり若い女の子なんだなあ、とどうでもいいことを改めて実感してしまう。



「さて、夏希さん。昨日の話の続きをしてもいいかな」

 ひとしきり続いた賑やかなお茶会がお開きになり、看護師さんたちがそれぞれの持ち場へ戻ると、秋本会長はおもむろに私に向かって切り出した。

「昨日の話って……今後のこと、でしょうか」

「ああ。今日はひとつ、君に折り入って相談があるんだ」


 秋本会長はそう言うと、持ってきた書類袋からパンフレットのようなものを幾つか取り出して私の目の前に置く。見るとどうやら、病院の案内のようだ。

「ここの先生たちにも話を聞いていろいろ考えたんだが、やはり君の怪我は、完璧に治すためにはもうしばらくかかるらしい。傷跡に関しては形成手術なども考えなければならないし、治療が終わっても今度はリハビリがある。腕や足の筋肉は動かさなければ衰えるから、スポーツなどはともかく、少なくとも日常生活での行動に支障がなくなるまでは、結構な期間のリハビリを続けなくてはならない」

「ええ。それは私も覚悟していました」

 昨日感じた不安が再び胸に甦る。長期間の治療とリハビリ────それが終わるのと、両親が遺してくれた貯金が尽きるのとどっちが先だろう。


「この案内は、事故後の後遺症治療で有名な東京の病院のものなんだけどね。私の知人も何人か入院したことがあるが、治療も世話もとてもきめ細やかで、お薦めの病院だったそうだ」

「……東京?」

「うん。そこで夏希さん、相談なんだが────今後の生活の拠点を、東京に移す気はないかい? 東京ならいい病院も、優秀な高校もたくさんあるし、大学進学の際にも何かと有利になる。何より私が安心できるんだが」

「私が? 東京に住むんですか!?」


 思いもかけない提案に、私は裏返った声で叫んだ。東京────いやいやいや、それはないだろう。この地元でさえいくらかかるか判らない治療費が、東京なんぞに行ったらそれこそどこまで跳ね上がるか。生活費や学費だって、確実に今よりは多くかかるだろうし。第一、東京でどこに住めっていうのよ?


「費用のことなら心配いらないよ。もとより、すべて私が負担するつもりでいたんだ。それにいい病院にかかれば、それだけ傷の治りもリハビリの効果も早くなる。ただでさえ時間を無駄にしてしまったんだから、多少のお金には代えられない」

 多少のお金って……『多少』じゃないでしょ、私にとっては!

「もちろん、住むところも私の方で見つけるよ。いざとなったらうちに住んだっていいんだし」

「待って下さい。それってまさか、治療が終わってもそのまま東京に住み続ける、ってことですか?」

「ああ、そういうことになるだろうね。いっそのことうちの養女になるかい?」

「まさか!」

 平気な顔でサラッととんでもないことを言わないで欲しい。秋本家の養女なんて────この私に大金持ちのお嬢様が務まると、本気で思ってるんだろうか。


「……でも、学校は?」

「東京には、秋からでも入学できる高校があるんだ。実際は春に始まっているから形の上では中途編入、ということになるだろうけど。それでも、学校自体が秋学期開始という欧米諸国の制度を公認しているところなら、入学が遅れたこともさほどのハンディにはならないと思うよ」

「じゃあ、こっちの高校へは行けない、ってことですか? そんな!」

 あんなに一生懸命勉強してようやく合格した高校なのに。昔から憧れていたし、やりたかった野球部のマネージャーだって内々に許可を貰っている。何より、中学時代からのかけがえのない仲間たちが、ほぼ全員通っている学校なのだ。

「どうしても、こちらの高校に行きたいかい?」

「もちろんです! 大切な友達と離れたくない!」

 両親が事故で亡くなった、それはもう仕方がない。だけどこの上、友達までがいなくなってしまったら────私は本当に一人ぼっちになってしまう。それだけは絶対にイヤだ。


「そうか……。君の成績なら、どんな高校でも喜んで迎えてくれるんだが」

 秋本会長は、私の強い拒絶にかなり落胆したようだった。それはそうだろう。私ひとりのために忙しい合間を縫っていろいろと調べ、最良と思われる選択肢を提供してくれたのに、それをあっさり蹴ってしまったのだから。

「こう言っちゃ何だけど、こちらの一番の学校よりも学力レベルは高いし、設備も公立とは段違いだ。それなりに充実した学校生活を送れるだろうけど、友達ばかりはね……それこそ、お金には代えられないというのも良く解る」

「すみません」

「いや、もちろん無理強いするつもりはまったくないよ。あくまで君自身が決めることだ。ただ心配なのは、怪我が治って普通に動けるようになってから、こちらの高校が君を受け入れてくれるかどうか。担当医師の話では、たぶん今学期中は無理だろう、ということだったよ。一学期まるまる登校できなかった状態で、いきなり九月から普通の学校というのは、果たしてうまく行くのかどうか……」


 とにかくもう一度調べてみよう、という彼の言葉に、私は押し込めていた不可解な思いが再び頭をもたげてくるのを感じていた。いったいどうして、ここまでしてくれるんだろう。いくら補償のことがあるとはいえ、赤の他人の私のために。



「秋本会長。ひとつお訊きしてもいいですか」

「何だい?」

「どうしてそこまでして下さるんです? 怪我のことはともかく学校のこととか、果ては養女なんて話まで。私、あなたにそこまでして頂けるほど自分が価値のある人間だとは、とても思えません」

「………」

「せっかくのご厚意に、失礼なことを言ってるのは解っています。でも、不思議で仕方ないんです。何か特別な理由でもあるんでしょうか」

 まっすぐに彼の目を見つめて真剣に問いかける。会長も真面目な表情でしばらくの間私を見返していたが、やがてふっと目を逸らすと、小さく呟いた。


「これはできれば、君には言いたくなかったんだけどな。辛いことを思い出させるかも知れないから」

「何ですか?」

 目の前で逡巡する会長の顔を、不思議な思いで眺める。この人がここまで躊躇うなんて、今までには一度もなかったことだ。

「実はね。今回の事故には、ものすごい偶然が働いていたんだよ」

「……偶然?」

「ああ。私がここへ来たのは、うちの親族がやらかした不始末への謝罪。これは間違いない。だけど、それだけじゃないんだ。実は私は────この事故のずっと前から、君のご両親のことを良く知っていたんだよ」


 ────どういうこと?


「今から八年前のことだ。私は、あるシンポジウムで君の父上と知り合った。彼は素晴らしいプレゼンテーションを行い、会場中の拍手を浴びていた」

 八年前。確かまだ、私たちが東京近郊の町に住んでいた頃だ。

「彼に興味を抱いた私は、その後のレセプションで話しかけてみた。そうしたら、彼が当時働いていた会社の現状に不満を持っていることや、かつては同業者だった奥さんの子育てが一段落して、復職先を探しているがうまくいっていないことなどを、いろいろと話してくれたんだ」

 八年前といえば……私は七歳か。確かに一番手のかかる時期を過ぎて、小学校に上がった頃だっただろう。母は出産前まで、東京の大きな会社でコンピューターのSEをしていた、と父から聞かされたことも良く覚えている。

「その当時、うちの会社は情報処理部門が弱くてね。うちはもともと、製造関係で名を成した会社が母体となっていたから────だから、優秀なSEや情報技術者は大歓迎だったんだよ。彼のことがすっかり気に入った私は、その後に紹介された奥さんも本当に優秀な方だったこともあって、二人一緒にうちの会社に移ってきてくれないか、とお願いしたんだ」

「じゃあ、父が言っていた『ヘッドハンティング』って……」

「そう、私のことだ。うちの会社────正確には、うちのグループの情報会社。つまり君のご両親は、広く言えば秋本グループの正社員、ってことになる」

「………」


 ────なんとまあ。本当に『ものすごい偶然』だ。


「それなのに……その優秀なお二人を、あんなバカ息子のせいで失ってしまった。もしあの時、私が彼らを勧誘しなければ、お二人はこの町に移り住むこともなく、こんな事故に巻き込まれることもなかったかも知れないと思うと……」

「それは違います! 父も母も、自分の仕事を本当に愛していました。いい会社に誘って頂いた、って楽しそうに働いていたんです」

「夏希さん……」

「あなたのせいじゃありません。あなたがそんなふうに悔やむ必要なんて、少しもないんです。だからそんなこと言わないで下さい。お願いです!」


 会長が両親を誘ったことを後悔したら、あれほど幸せだった私たちの八年間が、丸ごと否定されてしまうことになる。そんなことは絶対に許せない。

 両親に新たな道を拓いてくれた人。私にとってだけでなく、この人は私の両親にとっても、人生の恩人だったのだ。

「どうして、初めにそのことを言って下さらなかったんですか?」

「あの事故からまだ日が浅いし、君も完治からはほど遠い。ご両親を亡くした心の傷も癒えていないだろう。だから、彼らを思い出させるようなことは、どうしても言い出せなかったんだよ」

 優しい人なのだ。ここまで私たちのことを思ってくれた人が、果たして他にいるだろうか。両親の死を知らされた後はさんざん泣いたけど、それ以来、必死に封印してきた涙が堪えきれず私の目に溢れる。


「良く解りました。辛いことをお尋ねして申し訳ありませんでした」

「……いや。夏希さん、辛いのは君の方だろう?」

「いいえ、私は大丈夫です。改めて────秋本会長、両親に代わってお礼を申し上げます。父と母のことを大事にして下さって、本当にありがとうございました」

 深く頭を下げる。昨日、彼が私にしてくれたのと同じように。

「あのお二人は、プライベートでも私の大切な友人だった。だから友人の愛娘を、今度は私がお世話したいと思った。これで君の問いの答えになったかな」

「……ええ、十分です。疑うようなことを言ってしまって、本当にごめんなさい」

 改めて謝罪し、顔を上げる。無用な疑念はもう抱くまい。人の厚意を、今日ほどありがたく感じたことはない。



「それと、もう一つ。私が君の援助をしようと思ったのには理由がある」

 気を取り直し、話の続きに戻ろうとした私に向かい、会長は唐突に言い出した。

「君自身が気に入ったから────というのは理由にならないかな」

「え?」

 ────どういう意味?

 私、この人にそこまで気に入られるようなこと、した覚えはないんですけど。

「もちろん、おかしな意味じゃないよ。この二日間君と話してみて、貴史が言っていたことが良く解ったんだ」

「貴史さんが? 何を言ったんです?」

 それには答えず、彼はいつもの優しい微笑みを浮かべる。


「意外に思うかも知れないけどね。君にはなにか、普通の中学生や高校生にはないものがあるんだよ」

「なにかって……何でしょう?」

「そうだね。例えば────正しい言葉遣いや大人への礼儀、社会常識。それに、特筆すべきは頭の回転の速さ。君と話していると、常に二手先、三手先まで読む必要が出てくる。私の一言から、君はあらゆる可能性を瞬時に考慮して私の反応まで読み切り、その上で言葉を返してくるだろう? 単に『頭がいい』なんてものじゃない。おかしな言い方だが、これで君がもし大学生だったら、それも何となく解る気がするんだけど……高校生くらいでこれができる人には、私も滅多に会ったことがない」

「………」

「それにそういう人は、いつだって話が面白い。頭の回転の速さというのは、別の言い方をするとユーモアセンスにも通じるものだからね。相手の反応を読んだり、その期待に応えて相手を笑わせたり、そういったことを君はいつも無意識のうちにやっている。台本通りに演じるお笑い芸人なんかとは、まったく次元の違う笑いのセンスがあるんだな。それは、頭の回転が速くなければ絶対に不可能なことだ」

「秋本さん……」


 ────ああ。この人には隠しおおせなかったか。


 彼の言葉は、私にとっては意外でも何でもない。今までは誰にも、それこそ両親にさえ話せなかったことだけど……心当たりがあり過ぎるほどある話だったのだ。




 幼い頃。それはほとんど物心ついた瞬間から、私にはおぼろげな記憶があった。

 今の私とはまったく違う、別人の記憶。


 あたかもフラッシュバックの如く、時折頭の隅をよぎる映像。どこか遠くから、脳髄へと直接響く音。それは時に幼い少女だったり、制服姿の女子学生だったり、今住んでいる地方都市よりも遙かに賑やかな大都会の喧噪だったり────いずれにせよ、今現在を生きる私にはおよそ見覚えのない映像であり、音声であり、会話だった。


 幼い頃からたびたび悩まされてきた不可解な記憶。それがおそらくは、私の中のどこかに埋め込まれた前世の魂が持つ記憶なのではないか、と思い至ったのは……いったいいつの頃だっただろうか。



 中学に入学した直後。

 真新しいセーラー服に身を包み、クラスメイトたちと共に部活動見学のため校内を巡っていた時のことだ。


 小学生の頃から、私は高校野球が大好きだった。春夏の甲子園大会観戦は、いつだって至福のひととき。女子は甲子園には出場できない、ということをまだ知らなかった頃は、私も高校生になったら絶対野球部に入って甲子園へ行くんだ、と固く決意していたものだ。

 そんな私が、女子よりも男子の友達と仲良くなるのは必然だっただろう。その日も私は、小学校からの親友の一人である野球小僧の幼馴染みに付き合って、自分が入れるわけでもない中学の野球部の練習を見学していた。

 狭い公立中の校庭。サッカー部やら陸上部やら、他の部の活動を気にしながらもひたむきにボールを追うユニフォーム姿の選手たち。ノックバットにボールが当たる乾いた音。そんな風景の中に身を置いた時、ふいに頭の中に────そして心の真ん中に、今までずっと曖昧だった別人の記憶が鮮明に甦るのを感じたのだ。



 記憶の中の私は、今よりもスラリと背の高い、ボーイッシュな少女だった。


 名前までは思い出せない。でもたぶん、あれは高校時代の記憶だったのだろう。そこで私は、現世の念願でもある野球部のマネージャーになっていた。単なる女子マネージャーの域を超えて、監督のようなことまでやっていたらしい。おそらくは弱小校の野球部だったんだろう、頭をよぎる映像の中に大人はおらず、くたびれたボールや色褪せた金属バット、ところどころ石ころが残る土のグラウンド、そして数もまばらな選手たちによるのんびりとした練習風景。男の子ばかりに囲まれて、パソコンを駆使しながらライバルチームの情報を分析する、「アネゴ」と呼ばれていた私。陽気で口が悪く、ほとんど男言葉。端から見れば干物女かも知れないが、記憶の中の私は笑顔に満ち溢れ、とても幸せそうだ。


 小柄で可愛らしい女の子の姿が見える。名前は泉田(いずみだ)莉子(りこ)。かつての私の親友だ。

 あまりに男っ気がない私を心配して、何やら秘策を授けてくれた彼女。当の私はとてもイヤそうな顔をしているが、お節介で世話焼きな彼女は気づかないらしい。


 場面は変わり、どこか郊外の広々とした公園。仲間の少年たちとブラブラそぞろ歩く私。突如響いた金属バットの打撃音。次の瞬間、視界がブラックアウトする。

 ────そこで、過去の私の記憶は終わっていた。



 間抜けな私のことだ。おそらくは野球場の近くを歩いていて、どこからか飛んできたファールボールにでも頭を直撃されたのだろう。それで打ち所が悪くて死んだのか、あるいはその衝撃で車道に飛び出して車にでも轢かれたのか────いずれにせよ、あまりにも乙女にあるまじき死に方だったに違いない。


 記憶の中では高校三年まで生きていた私。だから多少は、今の実年齢よりも精神年齢の方が高くなってしまったのかも知れない。秋本会長の言う、「もしも大学生だというなら理解できる」という言葉は、私にとっては痛恨の一言だった。中学を出たばかりの十五歳にはまだ不可能な言葉遊びも、さらに三年を生きて、大学生になった十八の頃なら自在に駆使することが可能なのだろうか。


 隠しきれなかった。過去十五年間、細心の注意を払って隠してきたことなのに。




「……さん? 夏希さん!」

「はい!」

 いけない。いつの間にか自分の思考の中に深く入り込んでいた。目の前で、秋本会長が心配そうに私の顔を覗き込んでいる。

「大丈夫かい? 気分が悪いのか?」

「いえ、大丈夫です。ちょっと考え事をしてしまって……すみませんでした」

 慌てて取り繕うと、彼は思い出したように腕時計に目を走らせた。


「思いのほか長いこと話し込んでしまったようだ。きっと疲れたんだろうな。君と話していると、相手が怪我人だということをつい忘れてしまう」

「あははは……言いたいこと言いますからね、私は」

「そんな意味じゃないよ。でも、今日はそろそろ失礼しよう。東京へ帰る前にまた来るから、それまでにもう一度、今日の話を考えておいてくれないかな」

 今日の話って、東京へ行く話のことか。うーん、どうしたらいいんだろう。

「判りました。もうちょっと良く考えてみます」

 だけど……考えたって、私には結論なんか出せないんじゃないだろうか。それもあのことがまた、記憶の中に戻ってきた今では。


「そうだ、秋本さん。最後にもう一つだけ、伺ってもよろしいですか?」

「いいよ。何かな」

「先ほど仰っていた、秋からでも入学できるっていう高校────何ていう名前の学校なのか、教えて頂けますか?」

 立ち上がり、今まさに病室から出て行こうとしていた秋本会長は、いつも通りの人懐っこい微笑を浮かべてベッドの私を振り返った。


「なんだ、そんなことか。────私立星城(せいじょう)学園。『星』の『城』と書く」

「……!」

「なかなかロマンチックな名前だろう? 実は私も理事の一人をしていてね。今はちょうど、うちの次男が二年生に在籍しているんだ」

「……そうなんですか。ありがとうございました」


 激しい心の動揺を押し隠し、私はにっこりと笑って彼に別れを告げた。




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